2015年 12月 22日
ところが日本の場合は「株式投資はリスクが大きい」という固定観念でガチガチである。(1)
『長期投資家の「先を読む」発想法』
10年後に上がる株をどう選ぶか
澤上篤人 新潮社 2014/11/25
<長期投資家は絶滅危惧種?>
<機関投資家の台頭>
・ところが、70年代後半から年金資金の運用が本格化しはじめてからというもの、世界の運用ビジネスは一変した。長期投資の視野で経済の現場に資本を投入していこうとする文化が廃れ、マーケットでの資金のやりとりに重心が移っていった。
そもそも年金資金の運用は、積立て加入者の老後資金のための運用蓄積最大化を目指すもの。つまり、長期投資がピッタリくる資金である。
ところが、先進国中心に60年代から70年初めにかけて年金制度が整備され、年金資金の積立てが70年代半ばから本格化した。それとともに、年金資金は世界の運用会社にとって最大のスポンサーとなっていった。
運用会社にとって、資産を預けてくれるスポンサーの意向は絶対である。すなわち、年金運用本格化とともに「年金は大事な資金であって、20年30年たって運用がお粗末だったでは手遅れである。毎年毎年、運用状況や成績をチェックしなければ」の考え方が支配的となっていった。
毎年の成績を追いかけるとなると、それはもう「長期投資」や「投資運用」ではなく、「資金運用」の世界である。
・もうそうなってくると、従来からの資本家マインドをもった長期投資など、どんどん片隅へ追いやられていく。なにしろ、年金資金という巨額マネーが株式市場や債券市場のみならず、それらの先物市場をも力で押し切ってくるのだ。それも、短期のトレーディングを主体として。
これが、世界の運用ビジネスの現状である。そして世界のマーケットも短期トレーディングをべースとした価格形成が主流となっている。
<資金運用と投資運用の違い>
・それは、資金運用と投資運用の違いを理解していない人が多いからだ。とはいえ、先に書いたように運用のプロを自認する機関投資家も年金運用を主体に、資金運用の世界にどっぷり浸ってしまっている。それで、投資とは資金運用だと思い込まされてしまう。
資金運用というのは、まさに計算ずくの世界。毎年、きちっと成績を出していく運用のことで、年金運用などで主流となっているもの。これには債券や証券化商品など、確実に利回りを計算できるものへの投資が向いている。債券であれば、預貯金のように毎年、定期的に利子を得ることができるので、年間の利回りを計算することができる。
この資金運用の考え方を、運用のプロである機関投資家が投資の世界に引きずり込んでしまっている。そこに、ちっとも儲からない投資の真似事がはびこってしまう。
<毎年の成績を追いかけるのが投資ではない>
・資金運用と投資運用の混同は、とりわけ日本の機関投資家の間でひどい。世界の年金運用では、まだ一部に長期投資が残っている。そもそも、よほどのしばりがない限り、年金資金の40%~70%を株式投資ポジションにしているところが一般的である。その株式投資においても、短期のディーリング指向が全体的に強まっているものの、長期の株式投資で運用収益の最大化を目指す考えはなんとか残っている。
ところが、日本の場合は、「株式投資はリスクが大きい」という固定観念でガチガチである。それが故に、本来なら長期投資をベースにすべき年金でも、株式投資比率は低めにして安全重視でいこうとなる。
・しかし、そんな都合の良いタイミングで確実に値上がりする株式なんてあるわけがない。そこで、こんな低金利でも機関投資家は、確実に計算できる債券を中心に運用して、雀の涙ほどの利回りを競うことになる。
これでは、ただの資金運用であって、投資運用の大らかさはどこにもない。もちろん誰だって自分の資産をリスクにさらすのは嫌なもの。たとえ低利であっても、安心確実な資金運用の方が良いと考える人がいても不思議ではない。とりわけ、年金の担当者や機関投資家の運用者たちはサラリーマンだから、自分の給料をリスクにさらしたくはないのが人情。
しかし、年金資金の運用はインフレに勝たなければ、実質的に目減りしてしまうということを忘れてはいけない。それを考えれば、やはり債券や株式のディーリングを中心とした資金運用ではなく、株式を主体とした投資運用にシフトする必要がある。
<投資は計算ずくでうまくいくものではない>
・投資運用は先の読めない世界に踏み込んでいくものである。
・株式投資というものは、暴落などで株価が下がったところで買いを入れ、安く仕込んだら、あとは値上がりをするのをじっと待っていれば良いのだ。もちろん、いつ上がるかは誰にも分からない。でも、人々に必要とされるサービス、製品、部品などを提供している企業に投資すれば、いつか株価は値上がりに転じる。なぜなら、人々が生活していくうえでそれらを必要としているのだから、長い目で見れば業績は伸びていくのは間違いない。
しかも、世界的に人口は増加傾向をたどっている。長期的にみれば企業の利益は増えて、株価も値上がりする。ただそれを持っていれば良いだけのこと。簡単な話である。目先の計算ばかりしていては、長期投資は出来ないのだ。
<短期の値動きは気にしない>
・今、本当の意味で長期投資を実践できている運用会社は、どのくらいあるのかといえば、ほんの一握りだ。それこそ99対1で、圧倒的に短期投資が多数を占めている。いや、99対1どころの話ではない。999対1かもしれない。
資金運用の世界にどっぷり浸っている機関投資家が毎年の成績を追いかけて短期売買を繰り返しているそんな中、いくら私のような長期投資家が「応援したいと思う企業を見定めてじっくり投資しよう」なんてキレイごとを言っても、意味がないと思う人もいるだろう。
・人の行動に左右されず、あくまでも自分のペースで投資を行うのが、長期投資の大原則である。
<なぜ短期投資ばかりになったのか>
・また、年金を受託する投資運用会社の側も、受託を増やして年金ビジネスでがっぽり稼ぐためには、毎年の成績を高める必要が生じてくる。「今はマイナスリターンですが、将来的には大きく資産が成長するはずです」といった理屈は、年金マーケティングの現場では通用しない。こうして年金は、あっという間に資金運用と短期投資の世界にはまり込んでいった。
<年金コンサルタントの暗躍>
・年金コンサルタントにも追いやられるようにして、ますます年金資金の運用は短期志向を強めていった。
<情報通信技術の発展と過剰流動性>
・それと同時に、世の中の流れも手伝って、年金の短期志向をますます強めていったところがある。それは、コンピューターの発展、情報通信網の高度化によって、短期投資やディーリングのインフラがどんどん整っていったことだ。プラスして、国境を越えて移動する「グローバルマネー」と称される過剰流動性がどんどん増えていったのも大きい。
<インデックス運用も万能ではない>
・先に触れたように、世界的に高齢化が進むなか、年金のキャッシュアウトがこれから本格化してくる。キャッシュアウトによって債券市場から資金が流出すれば、長期金利は上昇する。
そうなれば、株式市場も買えば何でも上がるという時代ではなくなる。長期金利の上昇で金融バブルの後始末に苦しむ金融株は大きく崩れるだろうし、経営破たんに陥るところも続出する。これは言わずもがなだろうが、世界的な超低金利政策で生き永らえているゾンビ企業の株式も売られることになる。
<中国の伸び悩みと、アフリカの台頭>
<中国経済の限界>
・リーマンショック以降、中国の経済成長率は2ケタから転落し、7%台まで低下した。そのうえ今は、日本と尖閣諸島問題で揉めている。今後、中国がどういう国になっていくのかという点は、多くの日本人が興味深く見守っているところだろう。
確かに、これまでのところは欧米先進国や日本が、中国の13億人という巨大マーケットを魅力に感じ、そこでビッグビジネスを展開しようと考えている。
しかし、一方で中国の急激な経済成長に伴って、公害の深刻化や、それに伴う環境悪化が、徐々に国際問題化してきている。
・グローバル企業というのは、常により有利な条件でモノを生産できる国・地域を探している。だから、仮に中国での生産が価格競争力につながらないと判断すれば、より価格競争力を維持できる国・地域に工場を移転させていく。インドやASEAN諸国が次の候補地になるだろう。
そうなると、欧米先進国や日本が、中国から資本や技術を引き揚げる恐れも高まってくる。中国はこの20年余り、世界の工場として築き上げてきた断トツの地位を失うことになりかねない。
・一方で、中国は今、内需型経済へシフトしようとしている。13億余の巨大人口をベースにして、消費大国になろうというわけだ。しかし、輸出が減る一方で内需型経済に移行すれば、いずれどこかで中国は確実に貿易赤字国になる。
現在でこそ世界最大の外貨準備保有を誇っているが、貿易赤字が恒常的になってくるとすると、中国経済は非常に不安定にならざるを得ない。
<一党独裁政治の終わりも>
・今の中国の政体は、どこかの段階で潰れるのではないか、そんな中国政府から叱られそうな想定もできなくはない。
なぜか、これまで中国という国は、13億人という人口の多さをひとつの武器にしてきた。安い賃金で労働集約型産業を築き、世界の工場として経済発展を遂げてきたのは、先に述べた通りだ。
しかし、その人口の多さが、これからは逆に足かせになる。
それは、一人っ子政策の弊害といっても良い。中国は1979年から一人っ子政策を採用し、とめども無く膨れ上がる人口増加に歯止めを掛けてきた。以来、35年が経過するなかで、相対的に高齢者の人口比率が高まる一方、若年層の人口比率が大きく低下した。まさに中国は今、人口の高齢化の真最中であり、あと10年もすれば、超高齢社会へと突入する。
ここで問題になるのが、中国経済がまだ発展途上にあるということだ。前述したが、欧米先進国や日本のように、富の蓄積が充分に進み、経済が成熟段階に入ったところで高齢化が進むなら、まだ良い。年金やその他の社会保障も整備されているからだ。
しかし中国の場合、年金制度をはじめとする社会保障制度は、まだ未整備のまま。経済水準も、1人当たりで見ればまだ日本よりもはるかに下だ。そして、かねてから問題視されているように、今の中国は経済格差が極端なまでに広がっている。超リッチ層が出現する一方で、その日の食べるもにも事欠くような、貧困層も混在している。
このような状態で超高齢化社会に突入したら、どうなるだろうか。
・しかし、貧困層にとって、社会保障制度が整備されない状態で超高齢社会に突入すると、ますます生活水準は下がっていく。当然、貧困層からは、共産党政権に対する不平不満、怨嗟の声が高まってくるはずだ。
そして、その行き着く先は社会混乱である。今でも地方各地で暴動が起こっているが、これからは今以上に暴動が起こるかもしれない。特に沿岸部に比べて貧しい内陸部では、中央の統治から独立しようとする動きも出てくるだろう。
・そして、地方経済が混乱すれば、これまで北京に流れ込んできた税収が、滞ってしまう。そうなれば、人民解放軍を維持することも難しくなり、地方の混乱を武力で抑えつけることも出来なくなるかもしれない。下手をすると、中国国内は、中央からのコントロールが全く効かない状況になるかもしれない。
結果、共産党による一党独裁という政体の維持は困難になり、中国は政治的に大混乱に陥る恐れが高まってくる。
<日本に地理学的リスクも>
・その意味では、たとえ10年後に今の共産主義独裁政治が崩れたとしても、経済自体は、勝手に回っていくだろう。どんな状況になるにせよ、13億の人々が少しでも経済水準の向上を目指すのだから、そこそこの経済成長率も維持できよう。
一番いいのが、中国経済が民主的な政治影響の下、安定的に発展してくれることだ。しかし、人々の間で経済的格差が止めどもなく広がっていくと、やっかいな問題が出てくる。
ひとつ、日本が備えておかなければならない問題は、経済的に困窮をきわめた大量の中国人が、難民化して日本に流れつくことだ。内陸部の貧困層が難民化した場合、まずは経済発展した沿岸部が緩衝地帯となるだろうが、じきに日本に押し寄せる。
・1000人くらいの難民であれば問題はないが、100万人、200万人という難民が日本に押し寄せてきたら、どうなるだろう。対処の仕方を間違えれば、途端に人権問題で世界中から袋叩きにされる。
かといって、いきなり大量の難民に来られても、日本にそれを受け入れるだけの体制が、現状ではほとんどない。
・ちょっと長い目で真剣に考えておかなければならないのは、中国の経済的リスクよりも、むしろ難民リスクかもしれない。
<韓国経済も危ない>
・金融市場や経済の混乱は、またいつか必ず起こる。そうなった時、韓国から資本が逃避する恐れは十分にある。その時、韓国はどう対応しようというのか。お手並み拝見ではあるが、恐らく非常に厳しい局面を迎えることになるだろう。
<インド経済は期待できるか>
・まだ20年先、30年先の話かもしれないが、長期的に見てインドは面白いと思う。他に、何か面白そうな国や地域はないだろうか。
ASEANは、まあ着実に経済水準が上がっていくだろう。インドネシアもそうだし、カンボジアやミャンマーなども、これから大きく成長していきそうだ。
<アフリカ経済が台頭する>
・アフリカなんかどうだろう。伝染病、部族間の闘争、汚職など、政治的な問題はいろいろありそうだ。けれども、世界地図を見渡してみて、これからの成長が期待できるのは、やはりアフリカだろう。
実はアフリカの成長力は非常に高い。何しろ、何もかもが不足している地域だから、どんなビジネスも高成長する可能性がある。
・アフリカの人口は今、10億人程度だが、2050年までには20億人、そして2100年には40億人を超えると見られている。すさまじい人口増加が予測されているのだ。
<●●インターネット情報から●●>
「毎日デジタル」 毎日新聞 2015/11/13
<年金積立金“ギャンブル化” GPIF、世界同時株安で損失一時「8兆円」>
年金財源の一つである年金積立金に一時、巨額の損失が発生した−−。そんなニュースが金融関係者の間で話題になっている。その額は約8兆円という試算もある。積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)は昨年来、運用益を増やそうと、株式での運用比率を高めてきたが、それが裏目に出たのか。真相を追った。【小林祥晃】
「年金積立金に数兆円規模の運用損が出たのは間違いありません。今夏の世界同時株安の影響です」(ある証券会社員)。この話は先月以降、一部メディアでも報じられたが、額については「約9兆円」「約8兆円」などまちまちだ。
ここに、国内の大手金融機関の内部資料がある。GPIFの運用実績を試算したものだ。それによると、7〜9月期にGPIFが出した運用損は、国内株で約4・3兆円、外国株で約3・7兆円。作成に携わったエコノミストは「ほかに国内外の債券で1000億円強の利益があり、差し引き約7・9兆円のマイナスと見られます。4〜6月期はプラス2・6兆円の運用益があるので、4月以降の運用実績は9月末時点でマイナス5・3兆円といったところでしょう」。他の金融機関も同様の試算をしているという。
GPIFは3カ月ごとの運用実績を公表しているが、問題の7〜9月期については今月中にも発表される予定だ。広報担当者にこの試算をぶつけると、運用損については否定せず「株価は動いており一時的に下がることもあります。しかし、日経平均株価はその後、回復しました。10月末時点で集計すれば損失はほとんど取り戻している。短期的な運用実績に目を奪われず、長いスパンで結果を見てほしい」と話した。
<●●インターネット情報から●●>
『北沢栄の「さらばニッポン官僚社会」』より、
資金運用が大失敗した理由
公的年金改革7
(2003年9月25日)
公的年金を考えるうえで、忘れてはならない視点がある。国民にとって「強制徴収」されることだ。結果、年金保険料の負担の重みは税金と全く変わらない。違いは、年金を含む社会保険料の負担のほうが国税総額よりも大きいことだ。年金保険料は、じつに所得税の倍近くも支払っているのである。このことから年金保険料の引き上げが、国民に所得税の引き上げに勝るとも劣らない深刻な衝撃を与えることがわかる。
われわれの年金は一体どうなるのか ― 5年に1度の年金改革が予定される来年に向け、ことし10月にも厚生労働省案が発表され、論議は大詰めを迎える。既に年金積立金の取り崩しを柱とする坂口力厚労相試案に続き、財務省も給付の大幅削減を求める対案を出した。
改革論議で一つ、新たに押し出されてきた要素がある。給付額の5年分に相当する年金積立金約150兆円の取り崩しだ。計画的に取り崩せば、「保険料アップ・給付金ダウン」の従来型シナリオを国民負担軽減に向け大幅に書き換えることは可能だ。積立金取り崩しを少子高齢化の進行に合わせて計画的に行えるなら、重要な財源ねん出の解決案になる。
もう一つ忘れてならないのは、積立金の運用収益の活用だ。年金給付は 1. 将来の保険料収入、2. 保有積立金、3. 国庫負担(現在は基礎年金給付に必要な費用の3分の1)、4. 積立金の運用収益、で賄われる。ところが厚労省が年金資金の運用を任している特殊法人「年金資金運用基金」(旧年金福祉事業団)は、運用で利益を出し積立金をプラスするどころか、昨年度まで累積で6兆717億円もの“大穴”をあけてしまったのだ。3年連続して赤字、しかも昨年度の損失は過去最悪の3兆608億円に上った。
なぜ、年資基金は性懲りもなく運用の失敗を繰り返すのか?今回は、このナゾを取り上げる。
金利負担の遺産
年金資金運用基金といえば、グリーンピア(大規模年金保養基地)にせよ住宅資金融資事業にせよ、ことごとく失敗している。とくに全国に13基地あるグリーンピアは、軒並み経営破綻して廃止が決まった。グリーンピア事業に投じられた年金積立金は、建設費だけで元利合計3508億円。さらに施設修繕、森林維持費、固定資産税などに233億円。これら一切の経費と役員、職員の人件費を含む運営費が毎年、年金積立金から支出されている(2003年度実績699億円)。
そのうえで、肝心の巨額の年金資金運用にも連戦連敗なのである。ことごとく失敗する理由は何なのか―。
『中国はもう終わっている』
黄文雄、石平 徳間書店 2013/9/30
<地方政府の崩壊が秒読み>
・地方政府の税収は、その大半を中央政府に吸い上げられるシステムになっています。そこで、2006年あたりから、地方政府は土地の使用権を転売することで自主財源を生み出すようになりました。
要するに、地方政府の土地を整備して、不動産開発会社にその使用権を売る。不動産会社はその土地にビルや住宅を建てて、金持ちや投資家に売りさばく、これが中国の不動産バブルを支えてきたのです。
・そこで地方政府が活用したのが、シャドーバンキングだったのです。中央政府の目をかいくぐり、大量の資金をここから集めることが可能になったのです。
一説によると、地方政府の債務は合計して20兆元(約320兆円)あると言われています。こうした債務は、公共投資や土地開発に使用した資金ですから、返済期間が長く設定されています。
ところが、実際には過剰な投資によって、ゴーストタウン化や過剰生産が起こってしまいました。
・はっきり言って、中小企業も地方政府も、債務を返済する能力も意思もありません。地方政府の返済が滞ったときには、借金したときの責任者がもういない、ということになる。中小企業もいざというときには夜逃げするつもりでいる。先ほど話に出たように、そもそも共産党幹部自体が、海外に資産を逃避させている状況です。
いずれ大破局が来たとき、誰も責任を取らないことは明白です。
・たとえば、上海株式市場に上場している企業にしても、上場によって集められた資金が、どこへどのように流れているか、よくわからない。企業決算の数字も本当かどうかわからないから、いざ倒産して会社を清算したときに、公表された財務状態とはまったく異なっていた、ということもありえます。
・中国では国家と人民との対立も万古不易の摂理で、「国富民貧」「剥民肥国」という四字熟語もあるほどです。
<ますます信用できなくなっている中国の統計>
・さらに、2009年末からインフレが始まったことで、中国の人件費が上がりました。本来、お札を刷ってインフレになれば、自国通貨の外貨に対する為替レートが下落しますから、そうした為替の調整作用によって、人件費上昇分をカバーすることができますが、現在の中国人民元は管理フロート制・通貨バスケットという為替システムになっており、変動相場制とは言いながら、政府によって管理されています。しかも前日比の変動幅を0.5%以内に制限しているので、値動きとしては非常に緩やかです。
そのため、インフレで人件費が上がっても、それを吸収できるほどの為替の調整作用が効かないのです。
・要するに、インフレになっても、中国は人民元切り下げもできず、そのため人件費の上昇で国際的な競争力を失ってしまったのです。
現在、日本もアベノミクスによってデフレ解消を目指して金融緩和を行い、お札を刷るということをやっていますが、それによって円安になっています。そうなると、中国の競争力はますます失われていきます。中国が安倍首相を批判しているのは、そういった背景もあるのです。
だいたい中国製は、安いから買うのであって、高いならわざわざ買うことはないでしょう。
・まず、実体経済はますますダメになる。それは、実体経済に回すお金がなくなるからです。銀行は自分たちの保身に走るから、担保能力のない中小企業に、ますますお金が回ってこなくなります。それで、中国経済が冷え込んでいくのです。
もう1つ、不動産バブルは確実に弾けます。もう銀行が融資を控えますから。そうなると、不動産開発業者の資金繰りがだんだん苦しくなる。
・しかも、不動産バブル崩壊で価格が暴落すると、不動産を財産として持っている人々が、財産を失います。そうなると、中国の内需、消費は減り続け、中国経済はますます転落していくしかなくなります。
そのようなことは、李克強たちにもわかっているのです。要するに、もうどっちみち生きる道がないということが。
<続々と撤退する外国資本と大量失業者の発生>
・これまで日本は「中国に進出しないと未来はない」といった論調でしたが、それが間違いだったことがはっきりしました。
・しかし、中国の農民工たちには、もう農村に生存基盤はないんです。耕す土地もなければ職もない。彼らはほぼ永久に、あちこち流れていくしかない。
もし日本で2300万人の人々が、定職もなく、あちこち流れると想像したらどうですか。
・この2億3000万人の農民工の多くが20代、30代ですから、都市生活に慣れた彼らは、農村に戻っておとなしく生活することは絶対にありません。
つまり、中国歴史上に繰り返し出現してきた流民が発生するということです。その結果は、黄さんがよくご存じでしょう。
・中国では、食えなくなった農民が流民となり、それが一大勢力を形成して政権を崩壊させるような暴動や大乱を起こしてきました。黄巾の乱も太平天国の乱も、流民を結集させて大きな勢力となりました。
<中国社会を崩壊させる2つのグループ>
・中国では大学生は7月に卒業し、9月に就職します。2013年に卒業する大学生は699万人いますが、現在は「史上最悪の就職氷河期」と言われています。
中国の伝言情報サイト「趕集網」が発表した「2013年卒業生就業報告」では、5月末時点で、就職が決定していた学生は、わずか16.8%だったと報じています。
・ということは、大学生だけでも約500万人が就職できないことになる。そしてこの数字は、これから年々悪くなっていくことになります。
<2014年 世界から見捨てられる中国>
<偽りの経済成長で深刻化する大気汚染と疫病蔓延>
・経済崩壊がもはや避けられない中国ですが、2013年にも、それを象徴するかのような、さまざまな矛盾が噴出しました。
その1つがPM2.5(微粒子状物質)です。これは、自動車の排気ガスなどに含まれる直径2.5マイクロメートル以下の微粒子のことで、人が吸い込むと喘息や肺がんを引き起こすとされています。中国の主要74都市では、このPM2.5の平均値(2013年1月~6月)がWHO(世界保健機関)基準の7倍にも達していると報告されています。
・このように、中国はユーラシア大陸の伝染病の発生源であり、台湾も日本も、病原菌が中国からの船などによって運ばれ、歴史的に大きな被害を出してきました。最近では、SARS(重症急性呼吸器症候群)の流行も記憶に新しいところです。
<350年前の人口爆発から始まった環境汚染>
・毛沢東の時代には、戦争をする必要から「産めよ増やせよ」と出産が奨励され、5~6年ごとに1億人増加するという、猛烈なペースで人口増加が進みました。毛沢東が死去したときには9億人に達しています。
<環境悪化が経済成長を不可能にする>
・役人も企業も民衆も、みんなが金儲けに奔走して、その結果、環境汚染が加速度的に進んでしまいました。
中国が現在直面している問題は、もはや経済成長といったレベルではなくて、人間としてどうやって生きていくのかという問題になっています。これは、世界全体にとっても大変な問題です。あの十数億の民をどうするのか。誰がどう養っていくのか。
・環境問題の悪化は、今後の中国の経済成長が不可能である1つの要因です。環境の悪化を防ぐには、経済成長のペースを下げざるをえない。しかし、そうなると食えなくなった民衆が暴動を起こす。かといって、経済成長のために現在の鉄鋼産業のように無理な生産を続ければ、環境汚染が進んでやはり民衆が暴動を起こす。どちらにしてもいい結果にはならない。だから、金持ちから貧困層までもが海外へ逃亡しているのです。
このように、経済成長を維持できる要因が1つもないのです。中国でいま、習近平こそ「ラスト・エンペラー」だという話が囁かれていますが、こうした状況を見るにつけ、それは正しいと思わざるをえません。
<ウイグル問題の爆発が迫っている>
・そして、中国が抱えるもう1つの大きな爆弾が民族問題です。2008年の北京オリンピック直前にチベットで大規模暴動が起き、これを力で抑えた中国に対して、世界中で批判が相次ぎましたが、新疆ウイグル自治区では最近、同様の住民暴動が頻発しています。
<世界から締め出され始めた中国>
・これまで議論してきたように、経済も悪化する一方、習近平の政治改革も不可能、環境問題も民族問題も解決できないとなると、中国は国際社会における大混乱要因と認識されるようになるでしょう。
そしていま、中国の世界に対する影響力が目に見えて低下しています。
・これまで日本のメディアは「中国のしたたかなアフリカ支援」などと持ち上げてきましたが、現在では、アフリカ諸国から公然と批判が起きるようになってきました。
中国との「子々孫々までの友好」がいかに難しいかということを、アフリカ諸国の人々もようやくわかってきたようです。
・アフリカにしても、中国から多額の援助があったところで、国民は豊かにならない。むしろ不当に安く中国人に使われるだけで、儲けは中国人に持って行かれてしまう。そういうことがわかってきた。
中国経済がもっとも躍進した時期でさえそうだったわけですから、これから経済が失速するなかで、他国に利益をもたらすような援助などできるはずがない。アフリカ諸国もそう考え始めたということだと思います。
これから中国にしがみつくのは韓国くらいでしょう。しかし、韓国人も実際は中国を嫌っている。しかし、彼らは中国に頼るしか道がない。
<日本は中国崩壊に備えよ>
・もう、中国の未来ははっきりしています。もはや経済的も社会的にも、ソフトランディングもハードランディングもできない。待っているのは着陸ではなく、墜落ですよ。中国では実体経済も産業も社会もすべて小細工と偽物の集まりだからです。
・中国のバブルが崩壊すると、その影響はリーマン・ショックやギリシャ危機、ドバイショックの比ではないという観測もあります。
・だから、日本としては高見の見物をしていればいい。
ただ、日本として気をつけなくてはならないのは、バブル崩壊によって中国が大混乱に陥ったとき、中国共産党は統制経済への道に走るだろうということです。そして、それと同時に、対外戦争を仕掛けてくる可能性がある。自分たちが地獄に落ちるならば、日本も道連れにする可能性もあるのです。
・中国経済の崩壊によって韓国は大きな影響を受けるでしょうが、競争関係にあるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国、あるいはVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチン)諸国は、かえって喜ぶでしょう。インドもアジア諸国も喜ぶ。
・みんな喜ぶ。ただし、もう1つのオプションとしては、中国国内の大混乱や、さらには政権崩壊などが起きれば、何千、何億という人民が雪崩を打って日本に逃げ込んでくる危険性もあります。
そうなると、日本も混乱の余波を受けて、大打撃を受ける。これは日本のみならず、周辺国がみなその脅威にさらされることになります。そもそも、数千万から億単位の人民を受け入れることなど、どの国でも不可能です。
残酷なようですが、その際には流入をシャットダウンするしかない。おそらく世界各国もそうせざるをえないでしょう。その日のためにも、日本は周辺各国と密接に連携しておく必要があると思います。
『週刊東洋経済 2015/6/27』
<ミスターWHOの少数異見>
<上海株急騰の裏の裏>
・「1万ポイントまでいく」と言うのは、とある政府関係者。中国の代表的株価指数、上海総合指数の話だ。
・中国の証券市場は、個人投資家が主体であるうえ、10年に信用取引を導入したこともあり、一方向に振れやすい性質がある。それにしても、景気の減速が明白な中での急騰は普通ではない。
・国内での不満の高まりを懸念した政府は株価上昇を容認、御用学者が5000ポイントまでの上昇を予測、政府系新聞は株高をあおった。
・また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に絡んだ海外向けのアピールだと解説する中国人学者もいた。習政権が打ち出している「一帯一路」政策は中国の自信を表しており、これを実行に移すためにも、中国経済は引き続き堅調に推移している、というシグナルを発信したというのだ。見え見えの官製相場だとしても、結果が残れば、その意図は成功したといえる。
<官製相場は制御可能か>
・つまり、今回政府が株高を容認したのなら、政府保有株式の放出を検討しているとしてもおかしくはないのだ。
さすれば、政府にとって虎の子ともいえる保有株を売却する理由は何か。表向きは「民営化の促進」ということになるだろうが、今である必要はない。
考えられるのは、鉄鋼など業績悪化が伝えられる企業群に対するテコ入れの原資である。また、不動産開発で多額の債務を抱えた地方政府の救済もありうる。
・いずれにしろ懸念されるのは、膨大な売りによる需要悪化だ。放出の仕方を間違えれば暴落につながりかねない。
07年、株価は半年で倍になって最高値をつけた。このときは年金を受給している老人までが株式を求めて列を成した。が、その後は同じ期間でほとんど半値になっている。 (東えびす)