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日本の労働分配率は低いですね。これはじつに問題ですね。家計貯蓄よりも企業の貯蓄のほうが大きいです。経済学の本来の常識では考えられないことです。(1)

『アメリカ人禅僧、日本社会の構造に分け入る  13人との対話』

 ミラー和空    講談社    2015/7/28

日本ならではの摂取量=ほどほどの食べかた

・(和空)アメリカから日本にたどりついた来日当初は、毎日のように、日本人の食べる量にびっくりさせられました。たとえば、自動販売機の250ミリリットルの清涼飲料。これはお人形遊びならまだしも、大人がお金を出して買って飲むようなものではない、と。近年、350ミリリットルのサイズが普及しており、スポーツドリンクやミネラルウォーターは500ミリリットルと多い。でも、私の故郷である米国のアリゾナ州では、女性や子どもでも1リットル、1.5リットルサイズを飲むことがけっして珍しくなく、250ミリリットルは試飲サンプルならともかく、商品としてはありえないでしょう。

 アイスクリームでもファストフードでも、日米で摂取量は雲泥の差です。

<自給率>

(和空)さきほどご自身の新潟の故郷をあげて、近くで栽培された作物をいただくことの大切さについて触れられましたが、国として考えた場合、日本は食料の自給率が非常に低いですね。

<米国流の過疎化>

・米国国勢調査のデータによれば、農場に居住する農家とその家族からなる「農場人口」が総人口に占める比率は、1900年の39.3%から1940年に22.9%、1970年に4.1%、2000年には1%まで減少している。

米国の過疎化には、機械化、強力な農薬の多用、品種改良などによる労働生産性の飛躍的な向上がその主要な要因であることは言うまでもない。また、近年には新たな現象として農場の大型化も農場人口の減少の要因になっている。

・街に戻って、伯母さんにその理由を求めたところ、笑われた。

「知らないの?それは、『ラウンドアップ』のせいですよ。それに養豚場」。

「ラウンドアップ」とは、米国の化学品大手「モンサント」が1970年代に商品化した除草剤。有効成分はグリホサートイソプロピルアミン塩で、除草効果が抜群だ。また、その本来の威力を発揮させるためには、殺草力に対抗できる品種の作物を栽培することが条件だ。

 そこで、モンサントは、遺伝子組み換えの改良品種のトウモロコシ、大豆、カノラ、綿花、アルファルファなどを開発して「ラウンドアップ・レディー」としてあいついで発売した。

「ラウンドアップ・レディー」の作物品種を「ラウンドアップ」の除草剤と組みあわせて使うことによって、除草作業がなくなり、種を蒔いてから収穫するまでの間の農作業が激減して、近くに住む必要がなくなった。

 また、家畜に関しては、量産工場のような養豚場や養鶏場などが台頭し、大型生産が進むことによって、小規模な生産者はコスト競争力を完全に失った。

・(和空)今回の本の執筆に挑む動機づけとなったのは、「はじめに」で書いたとおりです。「在日36年。還暦を目のまえにして、順当にいけばこのまま日本に骨を埋めることとなるだろう。かくいう私は、国籍こそ米国にあるが、人生の半分以上を日本の一住民、一納税者としてすごしており、この国の『今後』について、強い関心をもっている」

・「たちはだかる諸問題」は周知のとおり、社会的にも公然の事柄だ。つまり、人口減少高齢化、エネルギーの確保難、膨張する政府債務。近隣国との摩擦、社会の格差拡大など、かねてより新聞紙面を賑わせつづけてきた「おなじみ」のネタばかりだ。

・ところが、現在にいたっては、直面する問題を打破すべく、創造的な解決策がみいだされていない。否、とるべき打開策が明らかであっても、実行する決意ができていない。すなわち、

  1. 人口減少高齢化の時代が何十年も前から予測できたにもかかわらず、官民とも自国の人口動態の実態にとうてい合わない、いわば「身分不相応な」投資をおこないつづけている。

  2. エネルギーの確保難を控えながらも、高速道路の建設をはじめ自家用車の使用を促進するなど、エネルギーの浪費を招いている。

  3. 膨張する政府債務がのしかかるなか、経済対策として投資効率の低い土建などの公共事業を目玉とする、名ばかりの「成長戦略」を打ち出す。

  4. 外交の舵取りにおいて、近隣国との摩擦を初期段階で鎮めて再発防止を図ることをしないばかりか、当該摩擦を危険なほど悪化させるような行動・言動をくりかえす。

  5. 社会の格差拡大にさらされながらも、適切かつ果敢な対策で数多くの難局を乗り越えた、かつての日本と同じ国とは思えないほど、絶望的な状況だ。

・私の祈願する日本の「今後」とは、次のような状態である。国内において生き甲斐のある生活環境が整備されること。いっぽう活発な国際交流をおこない、他国との健全な友好関係を保ち、相互の活力が引き出される環境にあること。そのためにも、現時点での世界における日本の位置づけを直視し、再確認する必要がある。

 かぎられた投資資金を効果的に活用するために、グローバルな観点から分野ごとに、日本の真の強みを正確に把握する。そのうえで、低賃金の国で国外生産するのか、日本で起業もしくは生産維持をめざすのか、事業基盤の重点をどこに置くのが得策かを厳選しなければいけない。農業であろうと自動車業界であろうと、国内に適した生産活動もあれば、そうでないものもあるという現状を、理解すべきだ。

・「あなたは日本人じゃないからわからないでしょう」3分の1世紀を優に超える年月、この国の住人であるにもかかわらず、いまなお親しい人にもこう言われることがある。そのつど湧き上がる疑問……。長年、この国で生活しながらも、私は肝心な、日本人的「なにか」をほんとうに見逃しているのだろうか。

『人口動態の現実的な処方箋   松谷明彦』

・政府債務の膨張、産業の国際競争力の低下、格差社会の顕著化、年金制度の破綻、インフラの劣化……。

 右記の一連の問題をはじめ、日本にたちはだかる諸問題の多くは、人口動態が大きくかかわっている。

……にもかかわらず、人口動態の必然的なゆくえを無視して、現実離れした政策と戦略を展開しつづける日本の政府と企業界。その姿勢を嘆いて、警鐘を鳴らしつづけてきた預言者、松谷明彦氏。

とりわけ、「女老外」(女性・老人・外国人)のさらなる活用や出生率の向上について、その総合的な善悪は措いて、人口減少高齢化の対策としては効果的でないばかりか、場合によっては逆効果を招きかねない、と力説する。

<基盤条件の変化>

・たとえば、これから高齢化が進んでいけば、当然、年金福祉政策とか、財政とか、いまのシステムでは早晩破綻するんですが、いまのところ破綻していないですね。したがって、条件変化があっても、そこから発生してくる問題が今なお顕在化していないというところに原因があると思いますね。

<どのような変革を>

1980年代になるとまず韓国が競合相手としてあらわれ、次に中国、最近になってインドが出てきました。これらの国はいずれも日本と同じビジネスモデルを使っていますよね。要するに、欧米で開発されたモノを、大量生産でより安く精巧に作る、日本とまったく同じモデルです。

・たとえば、中国に日本の企業が進出するとします。同じ製品を作っている出先の政府は自国の企業を守る姿勢で、日系企業に対して、規制をより強くかけてくるわけです。なんとか賃金を上げさせようとするんです。

・だから日本も、従来のビジネスモデルがデッドロックに乗り上げていて、もうこのままでは無理だ、それを変えるにはどうしたらいいか、と言うならば、そんなことを考える前に、国を開いて、それこそ欧米諸国並みに、3分の1くらいを外国企業にするとか、研究者の3分の1から半分くらいを外国人にするとか、そういうような環境にしないと、国際競争力って出てこないと思います。

 そうすれば日本の企業文化は大幅に変わるし、いまの企業のリーダーは全員引退ですね。

<介護こそ日本人でなお賄うべき仕事>

・それは、労働市場の構造や賃金体系が歪んでいるからです。外国人を迎え入れてもいいけれど、まず、日本ではこれだけの失業があるのに、なぜその人たちが介護の仕事に従事しようとしないのか。きついとか汚いとか、そういう要因もありますが、基本的に賃金が安すぎるからです。賃金を高くすれば、若い人もどんどん来ますよ。

・しかし、「外国人の活用、外国人の活用」と叫ぶ日本人はもうひとつの問題を見逃しています。外国人の労働者は、一部の専門家などを除いておおむね所得の低い単純労働者で、扶養家族もいるし、本人も歳をとっていくし、それぞれのかたちで福祉制度の負担になっていきます。もちろん、優秀な人がいて、日本がその技能を必要としているならば、迎え入れてもいいけれど、それを人口減少高齢化の対策だと思うのは、大きな勘違いです。

・いま、日本がいちばん必要としている能力とは、ひとつはクリエイティブな能力です。いままでのビジネスモデルはダメだから、これから新しいモデルをみいだしていくしかないんです。でも、クリエイティブだけでは、思いつきだけではダメで、専門的な能力がないとまず無理ですね。

・いまの日本人の能力は、男女、高齢者、すべてを含めて、マニュアルどおり、粘り強く、みんなと協調しながら、ぬるま湯でやっていく、そうした能力ではないですか?

・「活用」はいいですよ。「たとえば、こういうモノを作りたいからこういう能力が必要だ。この能力をこのように活用する」というふうに論じるのは問題ないですよ。問題は「女性を活用する」とか「高齢者を活用する」とか、それは無意味です。

低すぎる労働分配率と古すぎる高度成長の妄想

・要は、フランスでは98パーセントの高齢者は働かなくても食っていける。そういう社会ですよ、フランスは。日本は30パーセントの高齢者が働かなければ食っていけない。物価とか、福祉政策とか、そういったものの問題ですね。高齢になっても、能力があって働きつづけたい人がいればそうすればいいけれど、高齢になっても働かなければ食っていけない、という社会は確実に悪い社会です。

日本の労働分配率は低いですね。これはじつに問題ですね。家計貯蓄よりも企業の貯蓄のほうが大きいです。経済学の本来の常識では考えられないことです。近年、欧米でも問題になってきているんですが、日本はとくに大きい、企業貯蓄が。

・過去はこんなに貯めこんでいなかったんです。企業貯蓄が家計貯蓄を超えたのは、2001年。1990年代に入ってからバブル経済の崩壊を受けて、家計貯蓄が急激に減ったいっぽう、企業の大規模のリストラが進んで、給与水準を下げて、儲けを労働者にまわさないでどんどん貯めこんでいった。

・本気で所得水準を高めて、経済拡大につなげようと思っていれば、労働規制をかけるでしょう。たとえば、いま、所得の水準を下げている最大の要因は、いわゆる非正規雇用です。

 だから、本気であれば、まず、これをいっさい禁止すればいいでしょう。全員を正社員にしなければいけない、とうふうにすればいいでしょう。これさえすれば、所得の水準が簡単に上がりますよね。しかし、絶対にやらないでしょう。

・インフレの目標だって、企業のためにやっているんですよ。しかし、しょせん、日本産の製品はどんどん海外で売れなくなってきているから、設備の稼働率はどんどん下がってきていますよね。だからコストがどんどん上がってきているんです。そこでかりに2パーセントのインフレ率に達することができても、企業が救われるわけがない。彼らはあまりに実態を知らなさすぎます。

<個人の出番、地方の時代>

「女老外」の活用と出生率向上の神話

・これほどの人口減少高齢化を、これほど短期間に体験した国は他にはない。したがって、松谷氏が言う「コピー生産」をもって欧米を追っかけて、ついに追いついた日本だが、こんどは模範となる他国がなく、みずから道を切り拓き、歩んでいくほかない。

 人口減少高齢化の対策について各種各方面で提案が浮上している。なかには、女性や高齢者、外国人労働者の活用を呼びかける働きかけもあれば、出生率の向上をめざして出産奨励策を導入した自治体もある。

 しかし、これらの対策はいずれも日本に立ちはだかる人口減少に歯止めをかける威力がないばかりか、このようにして無理やり右肩上がりの成長を図ろうとすればするほど、本質的な対応策への着手が先延ばしになり、日本人の生活水準が不必要に下がる一方だ。

・では、「本質的な対応策」とはなにか。松谷氏は『「人口減少経済」の新しい公式』をはじめとする一連の著作において詳細な処方箋を展開しているので、ぜひとも参照していただきたい。

松谷論を乱暴に丸めて言うならば、「人口減少高齢化とそれにともなう経済縮小は避けて通れない道だと素直に認めたうえで、その不可避の社会経済的な運命に合わせた生きかたをみいだしていく」ということだ。

 たとえば、政府は長期的な視野に立って財政支出を真に必要な公共事業に絞り、企業は過剰な設備投資をやめて、資金を賃金増・配当性向の向上にまわし、個人は長寿化に備えてお金では買えない幸せをより多く求める、などの対応策が挙げられる。もちろんそのためには、日本という地理的エリアにおける製品開発力の飛躍的な向上が必要なことは言うまでもない。

 日本は高度なインフラが備わっており、教育・技能の水準が高く、すぐれた生産技術を有しており、国際競争力をもつ企業が多数ある。政策と企業戦略で適切な舵取りさえすれば、日本丸は生活水準をあまり下げることなく、人口減少高齢化時代を航海していけるはずなのだ。

・結論から言えば、先進国のなかで日本における女性の就職率はすでに高い水準にある。

・いっぽう、けっして「就職率」だけで雇用条件全般が言いあらわせているわけではなく、日本における女性の雇用機会について改善すべき点は多々ある。とりわけ、管理職に占める女性の比率に関しては、日本は甚だ遅れている。

したがって、日本における女性の就職率は比較的高いにもかかわらず、女性の力を充分に活用しているとはいえないのが現状だ。また、この不平等を是正していくことによって、社会の活性化が進むだけでなく、労働生産性が向上することも考えられる。

・人口減少高齢化にともなう経済縮小を防ぐための対策のひとつとして、労働市場における高齢者のいっそうの活用を勧める人が多い。ところが、この考えかたは三つの致命的な問題をはらんでいる、と松谷氏は指摘する。

 第一に「女性活用論」と同じく、先進国のなかで日本は65歳以上の就職率はすでに高水準にある。

・第二は経済効率に関連する。つまり、ほとんどの仕事の現場で、高齢者は若い労働者よりも労働生産性が低い。これは生物学上宿命的な問題だ。人間は、歳を重ねるとともに、体力や視力、反射神経などが衰えていく。

・第三は人道的な話。65歳まで働きつづけた人は、十二分に社会に貢献している。晩年は、孫と遊んだり、趣味を満喫したり、旅をしたりするなど、楽しくすごす権利を獲得しているはずだ。

 もちろん、体が丈夫で本人がやりたい仕事があれば、それをやればいいけれど、誰もが65歳になれば働かなくても暮らしていける、というような社会づくりこそ急務である、と松谷氏は力説する。

松谷氏は、本書のインタビューでも次のように外国人の単純労働者の多数の受け入れに対して懐疑的と発言している。「外国人の労働者は、一部の専門家などを除いておおむね所得の低い単純労働者で、扶養家族もいるし、本人も歳をとっていくし、それぞれのかたちで福祉制度の負担になっていきます。(中略)それを人口減少高齢化の対策だと思うのは、大きな勘違いです」また、外国人労働者の活用による直接的な経済効果についても、成長活性化の妨げ以外のなにものでもないと、数字を持ちだして、論じる。

『ネオアベノミクスの論点』

レジームチェンジの貫徹で日本経済は復活する

若田部昌澄     PHP   2015/2/14

<団塊ジュニア世代への再分配を整備せよ>

・日本の長期停滞の影響がきわめて深刻に出ているのは、現在4045歳あたりの年齢層です。団塊ジュニア世代で人口も多く、バブル崩壊で就職口も少なく、再就職や職業スキルの積み重ねもできず、資産形成をできていないのがこの世代なのです。その後の小泉景気などで労働市場もやや回復しましたが、そのときは新卒者中心に採用されてしまったため、経済の回復からちょうど取り残された世代であるといえます。ここへの再分配をどうするかは、非常に大きな政治課題です。

・再分配については、これまでのアベノミクスにおいては大いに懸念があります。20147月から施行された改正生活保護法では、生活保護申請については書類の追加提出を求め、ほかにも扶養家族調査を拡充するなど、生活保護を受けにくくさせる方向が明らかです。不正受給が問題なのは言うまでもありませんが、それは全体の増加額にとっては3%程度にすぎないことです。生活保護受給者数がここまで増えたのは、何といっても不況の影響です。つまり、誰もがそういう状況に陥りやすくなっているということでもあるのです。

・より大きな問題は、これまで不適法行為とされてきた水際での申請拒否を、役所の裁量に任せてしまうという点にあります。アベノミクスは貧困者の数を減らし、生活保護受給者数を減らすでしょうが、金融政策についてはせっかくインフレ目標によってルール重視に移行したにもかかわらず、社会保障分野では役人の裁量を強化するのは望ましいことではありません。人の生き死にが役所の窓口の裁量にゆだねられるような制度は、早期に撤廃すべきです。

・第1次アベノミクスは、マクロ経済的な視点では、かくも目覚ましい成果を挙げました。ただ、消費税増税で大きく後退してしまいましたし、個別に見ていくと再分配を中心に懸念すべき材料も多くあります。ネオアベノミクスとは、こうした課題解決に向けて、将来の日本の姿をいかに構想するかの問題でもあります。

<「借金経営」はお金を循環させるために必要不可欠な政策>

・実際に最近の経済学の議論では、長期停滞が定着すれば財政ファイナンスも常態化するという研究でもあります。リーマン・ショック後の世界で、新しい経済状況を「ニューノーマル」と呼ぶことが流行りました。それにかこつけて言えば、危機後の世界では、財政ファイナンスは「ニューノーマル」の一部とも言えます。

・家計が貯蓄を行うということは、その分消費や投資をしていないということです。以前は家計に代わって企業がお金を借りて使うことで、民間部門がうまく回っているという構図があったわけです。けれども、いまは両者ともお金を使わないので、代わりに誰かが使わないと長期停滞が発生してしまいます。そのときにお金を使う主体は、海外部門を除けば政府しかいません。このとき、政府が赤字になってでもお金を使うためには、財政ファイナンスが常態化するしかない、という議論がなされているわけです。

・財政ファイナンスの常態化が望ましいかどうかはともかく、少なくとも家計、企業、政府のいずれかがお金を使わないと経済が停滞することは確かで、家計と企業が資金超過主体化した状況で経済が回っていくためには、政府が赤字主体にならざるをえません。現状、長期国債の金利が低位で安定しているのは、家計や企業の国債に対する需要が強いから(でなければ国債の金利を上げないかぎり買い手がつきません)なのであって、一種の均衡状態であるのは事実です。逆に言えば当面は金利が高騰しない状態が続くのが、まさにニューノーマルな状況だと言えます。「金融緩和で長期金利が暴騰する」ということもよく囁かれますが、これは理論的には可能性があっても、現実的にはかなり起こりにくい現象です。

・ちなみに、メディアの報道などでは、国債の発行額を「国の借金」と呼ぶ表現が定着していますが、通貨発行権のない民間主体の借金と、発行権のある統合政府の国債発行額は、本来同じ比喩で語ることはできません。さらに言えば、もし「借金」にたとえるとしても、借金経営よりも無借金経営が優れているという根拠は薄いと言わざるをえません。

重要なのはどれだけの利益を生み、働く人たちにどれだけ分配しているかではないでしょうか。それは国家も同じで、適正な範囲の「借金」でそれに見合ったサービスが提供できているのであれば、それは望ましい状態なのです。

・適正な範囲の借金という話が出てきたので、国の債務残高についても解説を加えておきましょう。よく、日本の債務残高は1000兆円を突破したとか、GDPに対して250%あまりになって危機的な状況だ、という話があります。これについて異論を唱えているのが、コロンビア大学経済学部で日本経済論を教え、コロンビア・ビジネススクールの日本経済経営センターの研究担当所長を務めているデビッド・ワインシュタインです。

彼は日本の財政については、さほど悲観することはないという議論をしています。彼の議論のポイントは、日本の債務を考えるときには総債務ではなくて、純債務で考えなくてはいけないということです。まず日本政府は債務だけではなくて、資産を持っているので、総債務から総資産を差し引いた純債務の額はぐっと少なくなります。ワインシュタインの試算では、20146月時点で純資産のGDPに対する比率は132%になるといいます。

・また、現在は第一の矢のおかげで日本銀行が大量の国債を保有しています。この国債はそのまま持ち続けることができるので、この分を総債務から差し引くこともできます。そうなると、純債務のGDPに対する比率はさらに下がって、80%になるといいます。

・ワインシュタインは独自の試算をしていますが、じつは日本政府は「国の財務書類」という形で、バランスシートを公表しています。田中秀臣(上武大学教授)が計算していますが、政府の公式統計を使うと、純債務GDP比は2013年の段階で約93%、日銀の保有国債を考慮に入れて2014年を推計して見ると約41%になります。通常言われるよりは、日本の財政事情はかなり異なることがわかります。

・政府資産の話をすると、それは使うことができないとか、売ることができないという話が出てきます。たしかに公的年金に代わる部分である120兆円や、有形固定資産の一部のように使うことができないものもあるでしょう。しかし、現金・預金、有価証券、貸付金、出資金なども総資産には含まれます。また有形固定資産のなかには売却せずともリースをすることの可能なものがあるでしょう。

 もちろん、誤解のないように言うと、財政再建をしなくて良いというわけではありませんが、もう少し正確に数字を押さえておく必要があるということです。

<日本経済完全復活に必要な「三つのR」と「オープンレジーム」>

・この章では、アベノミクスを再強化した「ネオアベノミクスの望ましいあり方を探っていきたいと思います。

 その鍵となるのは、「三つのR」の遂行と、「オープンレジーム」への転換です。三つのRとは、

1.リフレーション(Reflation

2.リフォーム(Reform

3.リディストリビューション(Redistribution

です。これらは経済政策が目指すべき景気安定化、経済成長、所得再分配の三つの目標にそれぞれ対応しています。最後のRは所得再分配(re

distribution)のRだけでなく、リハビリのRでもあり、さらに大きな意味での日本の再建、リコンストラクションのRでもあります。

そして「オープンレジーム」とは、これまでの日本の政治経済が「クローズドレジーム」で運営されてきたことの反省に立ち、より開かれた環境を作ることを指した言葉です。

『データでわかる2030年の日本』

三浦展    洋泉社        2013/5/10

100年で日本の人口は3分の1に減少

・(人口)100年で日本の人口は3分の1に減り、人の住まない地域が増える!

・(高齢化)働き盛りが人口の3割しかいなくなり、現役10人が高齢者など10人を支える社会になる!

・(結婚・家族・世帯)未婚、離別、死別が人口の半数近くになり、親子ともに高齢者の世帯も増える!

・(教育・所得・福祉・住宅)大学定員割れ、空き家増加。正社員減少、改善が必要なことがたくさんある!

・今、日本は大変な転換期にあります。人口が減り、高齢者が増え、働き手である若い世代が減っていく、社会保障費は拡大し、消費税をはじめとした税金もおそらく上がっていくでしょう。高度経済成長期につくった道路などのインフラも老朽化していきます。

・今年、2013年は、1947年から49年に生まれた団塊世代(第1次ベビーブーム世代)は65歳前後になっています。団塊世代は、日本でも最も人口が多い世代です。彼らは2030年になると80歳を超え、ほとんどの人は仕事をせず、もしかしたら病気になったり、寝たきりになったりしているでしょう。

2030年までの間に、われわれ日本人は、社会のさまざまな仕組み、制度を根本から変えていき、2040年からの社会に備えなければならないのです。

日本の人口は20世紀に3倍増えた

・ざっくり言うと、4000万、8000万、12000万と増えた。50年間で4000万人ずつ、2倍、3倍と増えたのですね。すごい増え方です。

100年後に日本の人口は3分の1に減る

・昔は「多産多死」の時代と言います。これが明治以降は「多産少死」の時代になる。江戸時代と同じ調子でたくさん子どもを産んでも、あまり亡くならなくなった。だから人口が増えたのです。

 戦後になると「少産少死」の時代になる。2人産めば2人とも生き残る時代になった。しかし現代は「超少産」になってしまったので、人口が減るわけです。

・せっかく12000万人台にまで増えた人口も、現代では子どもを産む人が減ったために、2050年になると9700万人ほどに減る。2100年には、4959万人になる。2110年葉4280万人です。20世紀には100年かけて3倍に増えた人口が、21世紀の100年をかけてまた3分の1近くに減るのです。

・しかも、この予測は「中位推計」というもので、出生数や死亡数の増減の仕方を多すぎも少なすぎもしない中間的な仮定で予測したものです。出生数の減り方がもっと激しく、かつ死亡数の増え方ももっと激しいと仮定すると、2110年の人口は3014万人にまで減ってしまうのです。

アフリカの人口が35億になる

・日本以外の国々の人口は、一部の先進国を除けば、今後も増え続けます。現在は世界全体で70億人ほどですが、国連の予測によると、2100年には100億人になる。増えるのは主に新興国と呼ばれる国々です。

<中国とアフリカが結びつきを強める>

・また、川端氏によると、中国とアフリカの貿易額はこの10年で24倍に拡大し、2009年以来、アフリカにとって中国は最大の貿易相手になっているのだそうです。中国外務省はこのほど、アフリカで働く中国人の数は100万人を超えるとの試算を発表しています。

<人が住まない地域が増える>

・人口の半数以上が65歳以上である地域を「限界集落」と言いますが。そういう限界集落が増え続ける。

・相続する人がいない土地や家が増えるのですから、土地の価格は安くなるでしょうし、空き家が増えます。安くなった土地を外国人が買うというケースも増えるのではないでしょうか。

<外国人が日本を買い占める?>

・すでに現在でも、売れ残ったマンションなどを外国人に安く売ることは頻繁にあるようです。

『移民亡国論』 日本人のための日本国が消える!

三橋貴明   徳間書店   2014/6/27

<高度成長期の人手不足ですら外国人労働者は不要だった>

・また、高度成長期に人手不足状態に陥ったにもかかわらず、わが国が「外国人労働者」に頼ることがなかったことは特筆するべきだろう。同じ時期、欧州やアメリカもかつてないペースで経済規模が拡大したが、日本の成長率は群を抜いていた。

 欧米諸国は、黄金の四半世紀(戦後からオイルショックまでの期間)に経済を成長させつつ、人手不足解消のために外国人労働者の導入を始めた(結果、現在は欧州諸国までもが移民国家と化しつつある)。

・それに対し、日本経済は外国人労働者に頼らず、企業の設備投資拡大と日本国民の労働者の生産性向上により供給能力不足を補おうと努め、主要国の中で断トツの経済成長を達成した。この「事実」は、かなり示唆的だと思うわけだが、いかがだろうか。

・デフレ期のわが国では、ヒトの値段が下落し、いわゆるブラック企業までもが横行する事態になった。日本は早急に、「ヒトの値段が高い」社会を取り戻す必要がある。ヒトの値段が高まっていけば、ブラック企業の問題など、放っておいても解決することになるだろう。なにしろ、ヒトを大切にしない企業は、人材不足で倒産しかねない時代がやってこようとしているのだ。

・今後の日本において、少子高齢化が続き、生産年齢人口が減少していった場合、マクロ的にいかなる経済環境になるだろうか。高齢者は生産活動には従事しないが、消費は続ける。すなわち、需要は縮小するどころか、むしろ拡大する。

 そして、生産年齢人口の減少は、供給能力の縮小になる。わが国は近い将来、需要に供給能力が追いつかない、インフレギャップ状態に陥る。すでに、土木、建設、運送など、一部の産業はインフレギャップ状態に移行したが、全産業分野がそうなるという話である。

 結果、わが国のインフレ率は中長期的には高まっていくだろう。まさしく、高度成長期と同じ環境がやってくるのだ。

奴隷文化のない日本では「外国人メイド」は無理

・配偶者控除廃止と外国人メイド受け入れの組み合わせは、要するに、日本の「シンガポール化」だ。シンガポールは、イギリス発の奴隷文化を受け継ぎ、フィリピンやインドネシアから大勢のメイドを受け入れている。各家庭の「主人」や「奥方」は、メイドを「躾」「管理」することが求められる。なにしろ、身分が違うのだ。

・日本国民が外国人メイドを受け入れた場合、一緒に食卓を囲んでしまうだろう。シンガポールでは、その手の「メイドを甘やかす」行為は厳禁だ。シンガポールに赴任した日本人ビジネスマンたちは、必ずメイドの「管理」に苦労することになる。なにしろ、日本国内では、「身分が違う人」と暮らしている国民など、ほとんどいない。

<発展か没落か、日本の命運が決まる>

・結局のところ、あらゆる国家はオリジナルであり、互いの国民が、観光程度ならともかく、外国人労働者として移民、移動していくとなると、いかなる政策を用いても社会的コストの上昇を食いとめられないのである。

 あるいは、各国の国民が外国人流入による「自国の変貌」を受け入れなければならない。その覚悟が、現在の日本国民にあるだろうか。現在の日本国民は、将来世代に「異なる日本」を残してしまうことについて、責任がとれるのだろうか。

 責任など、とれるはずがない。だからこそ、外国人労働者の受け入れ拡大に代表される「移民政策」については、拙速な判断をするべきではない。慎重に、議論に議論を重ね、影響を図りつつ、政治家が判断する必要があるのだ。

・しかも、日本国に「外国人労働者受け入れ拡大」以外に解決策がないというのであればともかく、決してそうではない。わが国の人手不足、少子高齢化、人口減少といった諸問題は、むしろ解決策が明確すぎるほど明確なイシューである。

 現在の日本は、正真正銘の「岐路」を迎えようとしている。少子高齢化を奇貨として、新たな成長と繁栄の時代を迎えるか。それとも、国民経済の多くを外国に依存するようになり、安全保障を弱体化させ、異なる日本国に変貌し、将来的に発展途上国化するか。

 それを選ぶのは、私たち日本国民なのである。

・安倍政権は、外国人労働者受け入れ拡大に対し、異様なまでに積極的だ。本書執筆時点で国会に提出されている出入国管理法改正案において、高度人材ポイント制度の「規制」が大きく緩和されようとしている。

・「高度人材」の親や子供、家事使用人帯同の条件も大きく緩和される見込みである。さらに、高度人材である外国人が永住権を取得するために必要な在留期間が、これまでの5年から、3年に短縮することまで盛り込まれているのだ。

・なぜ、現時点で日本がここまで外国人の受け入れを促進しなければならないのか。安倍首相が「言葉」で移民を否定しようとも、安倍政権は明らかに「外国人受け入れ拡大」という政策に舵をきっているのだ。そうである以上、筆者が今、本書を刊行することには、何らかの歴史的な意味があるのではないか、などと思ったしだいである。


by karasusan | 2016-01-04 11:12 | その他 | Comments(0)