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「2017年は時代の大転換点になるというのが私の予測」。PKO部隊については欧米などの民間軍事会社が派遣するという動きも広がってきている。(1)

『長谷川慶太郎の大局を読む 緊急版 大転換』

トランプの政策が見えてきた!

2017年後半から大恐慌へ  ◉EU中国ロシア崩壊始まる

◉米中対立激化で    ◉重視される在日米軍基地

長谷川慶太郎   徳間書店    2017/1/25

2017年度末に予想される大激変に備えよ!

◉株価は日経平均20000円を超える

◉これからはEVが主流。出遅れたトヨタは衰退する

2017年度末に予想される大激変に備えよ!

◉トランプのシェールオイルテコ入れでOPECの原油減産協定は砂上の楼閣

◉保護貿易、いちばんダメージを受けるEU・中国・ロシア

◉減税、巨大インフラ投資で絶好調のアメリカ経済

2017年は時代の大転換点になるというのが私の予測

・イギリスとアメリカの一般大衆の動きは明らかに既成政治に対する不満と一部エリート層に対する怒りが爆発したと判断したほうが良い。この根本的な理解がなければこれからの社会、政治、経済状況は的確に把握できないといっても過言ではない。

・まず、ヨーロッパ大衆の反難民感情はますます高まり、右派勢力が台頭し政権を奪取。さらに銀行の不良債権問題がそれに拍車をかけ保護貿易に走り、EUは崩壊の道をたどり始める。

 EU崩壊の影響を一番受けるロシアも完全に青息吐息状態に陥り、中国は世界的な保護貿易の高まりで「安かろう悪かろう」の製品が売れずがたがたに――。世界はいやがうえにも大恐慌の道を進む。しかし、この大恐慌は長く続くまい。

 やはり保護貿易政策をとるアメリカは減税や内需拡大策が功を奏し好調な経済を持続。日本も豊富な長期資金を活用しアメリカとともに世界経済の復活に積極的に手を貸すだろう。

 以上これらの流れのなかでヨーロッパもアメリカも保護主義の愚かさを知り新たな時代の幕開けになる。まさに2017年は時代の大転換点になるというのが私の予測である。

日本の軍事と経済はこうなる

軍事面で日本はどんな国際貢献ができるのか?

<日米両首脳が象徴の地を相互訪問したことで日米戦争の戦後が完了した>

・日米両首脳による2つの象徴の地への相互訪問によって日米戦争の過去は清算されて第2次世界大戦の戦後も完了となった。つまり、第2次世界大戦が完全に歴史になったことを具体的な形で示したのである。その意味で安倍首相とオバマ大統領は歴史に大きな業績を刻んだといえる。

米海軍の陸上離着陸訓練基地として馬毛島を日本政府が買収

・日米同盟関係は日米安保条約の下で日本側がアメリカ側に米軍基地を提供していることで成り立っている。鹿児島県の種子島の隣にある馬毛島が米軍基地として提供されれば日米同盟関係の基盤はさらに強くなるはずだ。

・陸上離着陸訓練基地としての馬毛島の利点は3つある。1つが4200メートルという日本で最長のメイン滑走路があること。さらにメイン滑走路にクロスして伸びた2500メートルのサブ滑走路も備えている。このような空港は日本では馬毛島にしかない。2つ目が馬毛島は無人島だということだ。人が住んでいないのだから、反対運動は起こらず、住民とのトラブルも生じようがない。だから空いている土地も広い。居住棟、管制塔、倉庫、燃料施設、弾薬庫などの建設にも十分に余裕がある。

 さらに3つ目は、周辺の海が深いので大型の艦船も入れるということ。それで戦前は旧日本海軍も馬毛島を使っていたのだが、大型の艦船が入れるとなると米海軍の原子力空母も接岸できる。つまり、原子力空母3隻を馬毛島に終結させ、それらのすべての艦載機を用いて統一的に訓練することもできるわけだ。

 買収額は数十憶から30憶円と噂されているが、その程度の金額では無理だろう。

日本で創設される民間軍事会社のPKO部隊を派遣する手もある

・とはいえ安倍政権は126日に南スーダンのPKO部隊が駆けつけ警護で死亡した場合、隊員に支給する弔慰金の最高額を6000万円から9000万円へと引き上げることにし、PKOの手当についても116000円から24000円に増やした。この手当は日本のPKOでは過去最高額である。

・安保関連法があっても自衛隊は軍隊ではないから、自衛隊のPKO部隊についてはなお法律上の不備がある。自衛隊が軍隊ではないのは憲法9条で武力行使を禁止しているからだ。それで自衛隊は部隊としての重装備が許されず、駆けつけ警護においても軍隊なら当然できるような武力行使ができない。となると犠牲者も出やすくなるが、そういう立場に置かれているPKOの自衛隊員は非常に気の毒だ。これは弔慰金の金額を上げるといったこととは別次元の話である。     

・とはいえ南スーダンにPKO部隊を送っている先進国は日本だけだ。日本がPKOに初参加した1992年にはPKO派遣人数では上位10ヵ国中6ヵ国がイギリス、フランス、カナダなどの先進国だった。それが2015年には上位10ヵ国はインド、バングラデシュ、パキスタン、エチオピア、ルワンダなどアジアやアフリカの開発途上国ばかりになっている。開発途上国がPKO部隊を派遣するのは外貨を稼ぐことが大きな目的である。だから日本のような先進国が今さらPKO部隊派遣に力を入れる必要があるのかという指摘も出ている。

 また、PKO部隊については欧米などの民間軍事会社が派遣するという動きも広がってきている。とすれば日本が国としてPKOに部隊を出すことにこだわっているのなら、それ自体がすでに時代遅れになってきたといえる。もっと言えば、日本でも民間軍事会社の創設を許して、その会社からPKOに部隊を出すという発想をしてもかまわないのではないか。今回の南スーダンのような場合も日本に民間軍事会社があればここがPKO部隊を派遣するということになるだろう。

鮮明になってきた黒田日銀の敗北

異次元緩和を始めて4年近く経ってもなぜデフレ脱却ができないのか?

・賃金は上がっているのに消費が伸びないということだ。これは言うまでもなくデフレだからである。それで消費者は急いで買っても得になることはない。

・では消費者は賃金が上がった分をどうするか。それはまず貯蓄に回すだろう。もちろん株式投資にも向けていくので、その点では企業も潤わないはずがない。もともと日本の景気は悪くないのだから、いずれにしても株価については今後も上昇基調である。

したがって本来なら日銀も「2%目標達成に失敗した」と正直に告白すべきなのだろうが、となると今度は責任問題が浮上してくるため、失敗を認めるわけにもいかない。同様の理由から表向きには日銀は今後とも2%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現する」という姿勢を維持していくことになった。

 もとより金融政策だけでインフレにしたり、あるいはデフレにしたりなどと金融を自由にコントロールできるはずがない。いくら異次元緩和などと称したところで、戦争がない以上、デフレ脱却など無理なのである。日銀が方針転換に追い込まれたのは当然だといえる。

戦争がないのにデフレ脱却ができるはずがない

改めて言うと3年半も異次元緩和を続けて2%の目標ができなかったのは日銀の失敗だ。そうなった最大の要因は「いくら金融を緩めてもデフレをインフレにはできない」と日銀が率直にいえなかったことにある。

・消費者も長期にわたる平和が確立するという認識に立って経済では徹底したデフレが定着することを本能的に感じ取っている。にもかかわらず、日銀は金融政策でデフレをインフレに変えられると信じていた人物を日銀総裁に据えたということだ。

中央銀行としては常識外の長期金利のコントロールにまで踏み込む

・ただし今回の日銀の方針転換で金融関係者が最も驚いた点は、10年物国債の金利をゼロ程度で推移させるということ、つまり日銀が長期金利をコントロールすると宣言したことだった。なぜ驚いたかと言えば、長期金利は上げ下げのコントロールができないというのが今の資本主義経済の原則であり常識だからだ。本当に日銀に10年物国債の金利をゼロ程度に維持する力があるのかどうかはともかく、それを実現するためと称して日銀は長期国債の購入のほか、最長10年の資金を固定金利で供給するという金融調節手段も採用することにした。

・今はデフレ時代なので放っておくとどうしても長期金利はマイナスになってしまう。しかしデフレ脱却は無理だとしても、これ以上デフレを進行させないために、日銀としてはせめて金利をゼロ程度で維持しておきたいということなのだ。たとえ現実的には難しくても、日銀の立場としてはやはり長期金利のコントロールにまで踏み込まざるをえなかったのだ。

となると追加緩和の手段としては「短期金利の引き下げ」しかない。これは一つには「日銀当座預金のマイナス金利の幅と量をさらに拡大すること」だ。もう一つは、「銀行の法人預金全体にマイナス金利を導入すること」である。

政府と日銀は覚悟を持って法人預金にマイナス金利を導入すべし

・日銀が日銀当座預金にマイナス金利を導入したのも物価上昇率2%の目標を実現するためだった。金融機関も、日銀当座預金に資金を置いて金利を取られるくらいなら、その資金を企業などへの融資に積極的に回すだろうと予想された。これで投資が増えて景気が良くなれば2%の目標達成もできるはずだったのだ。ところが、日本企業は380兆円もの内部留保の余裕資金を貯め込んでいたため資金需要が小さく、金融機関の融資もあまり拡大しなかった。その点で日銀当座預金のマイナス0.1%という金利は物価上昇率2%を達成するには非力だったのである。

 そこで、すでに述べたように「日銀当座預金のマイナス金利の幅と量をさらに拡大すること」あるいは「銀行の法人預金にマイナス金利を導入すること」が求められるようになった。

トランプ政権に期待を抱くプーチン政権に未来はない

<リオ五輪で流れたロシア国家にはっきり表れているソ連への回帰志向>

・ロシア経済が急速に落ち込み始めたのは2014年からだ。まず3月にロシアがウクライナのクリミア半島を併合すると宣言したため、欧米諸国は7月からロシアに対して本格的な経済制裁を開始した。加えてこの年の後半から逆オイルショックが起こって原油価格が暴落し、それが世界有数の産油国であるロシアを直撃した。ロシアは輸出の約7割を原油と天然ガスに依存しており、国家予算の歳入も約4割は原油関連の税収が占めている。原油安が歳入の大幅減を招いて国家財政を圧迫するようになった。

 欧米の経済制裁および逆オイルショックは今も続いている。ロシアの通貨ルーブルが下落しインフレも起こって国家財政が悪化しているばかりか、国民生活も非常に苦しくなっている。このままいけば外貨準備が底を突いて、ロシアは早晩、貿易の決済ができなくなる。1991年のソ連崩壊後にロシア国民に提供された最大の成果は海外旅行の自由だったが、ルーブル安と外貨準備不足のためにここのところロシア国民は海外旅行がほとんどできなくなっている。

 このようにロシア経済が沈んでいく一方、プーチン政権が熱心に取り組んできたのは経済の回復ではなくロシアをソ連のような大国にすることだった。

時期が来ればトランプ政権は容赦なくプーチン大統領を切り捨てる

・だが、シリアで米露が共闘したらクリミア半島の併合もトランプ氏は承認するとプーチン大統領が思っているとすれば、それは間違いだ。トランプ氏の本質を見誤っている。ISを潰して中東情勢を安定させるという目標が達成できた後は、もはやトランプ氏にとってロシアは必要なくなる。だから次はいよいよロシアを潰す番だ。その方法は簡単で、経済制裁をもっと強化するだけでいい。ロシア経済はどんどん悪化して破綻するだろう。ロシア経済の実質経済成長率は2015年はマイナス3.7%だった。2016年はさらに悪くなっているはずだ。

 ロシア国民の生活は今でさえ非常に苦しいのに、ロシア経済が持ち直すどころか、逆に悪化していくばかりだとするなら、ロシア国民のプーチン政権に対する支持も急速に落ちていく。そしてついにはプーチン政権が崩壊するはめになる

<権力闘争の渦中にある中国と韓国最大財閥が受ける試練>

腹心失脚で巻き返しを図った習近平主席も党大会での再任は不透明

・非常に激しい党内の権力闘争は党大会まで続いていくのである。他方、中国経済はすでに危機に陥っている。権力闘争はその危機にさらに拍車をかけていくことになる。中国経済の破綻は直接、共産党の崩壊につながるのだから、そのときに党内の権力闘争にも終止符が打たれるということなのだ。

地方政府の債務問題を放置すれば確実に中国経済も崩壊していく

中国の地方政府の肩には莫大な債務がのしかかっている。今やこれは中国という国家の崩壊につながりかねない時限爆弾である。

 ではなぜそんなことになったのか。原因は1978年にスタートした中国の改革開放政策にある。中国政府はこの政策を加速させるために公共事業投資、都市開発、住宅地開発、外国からの投資導入、資源開発などの権限を地方政府に移譲した。それで地方政府が自ら先頭に立って地域開発を行ない、地方経済も活性化していった。ところが、地方政府が地方債を発行して資金を調達することは、財政規律を緩ませるとして中国政府が激しく制限したため、地方政府は地域開発において慢性的な資金不足に陥ってしまった。

・地方政府は融資平台を通してシャドーバンキングから巨額の資金を得て、乱脈な不動産開発をどんどん拡大していった。それで中国各地に人の住まないマンション群が林立していったのだが、そんなマンション群を中国では、人間が住めないで鬼が住む場所という意味で鬼城と呼んでいる。普通の言い方だとゴーストタウンである。

・むやみに投資を行なったのだから、当然ながら増えたのは鬼城ばかりではない。シャドーバンキングの理財商品の残高は40兆元(約680兆円)にもなった。これは日本の銀行が持つ預金総額に匹敵する。この40兆元のうち15兆元を中国の銀行が保有している15兆元というのは銀行の総資産の8%に相当する。だから理財商品での債務不履行が多くなるにつれて中国の銀行の倒産も増えていくことになる。

・これに関連して懸念されるのが地方政府に留まる一方の債務の破綻である。地方政府の債務は2016年末には17兆元まで膨らんだのだった。しかも融資平台の債務の一部が地方政府の債務に算入していない隠れ借金となっている。つまり、地方政府の債務は17兆元どころではないということだ。

地方政府の債務問題が放置されると確実に中国経済の崩壊につながる

この地方政府の債務問題が放置されると確実に中国経済の崩壊につながる。だから時限爆弾なのである。だが、中国政府が対策として出したのは、地方政府の債務の肩代わりや救済はせずにすべて地方政府の責任で処理させるという方針だった。

 となると地方政府が債務削減のためにできるのは、財政支出の多くを占める公共事業投資を減らす一方、税収の大幅増を図ることしかない。税収を増やすには地方企業の法人税や営業税を引き上げなければならないが、となると中国経済が落ち込んでいるため、ただでさえ苦境に立たされている多くの地方企業は一段と追い詰められることになる。その結果、中国全土で倒産と失業者が増えて中国経済はさらに大きく沈んでいくことになる。同時にこれは中国という国家も崩壊の道を歩むということなのである。

小さな政府・公共事業投資・自由貿易体制

デフレ時代に不可欠な小さな政府のための行政組織のリストラ

・トランプ氏は「偉大なアメリカの復活」「アメリカ第一主義」を掲げているが、デフレ時代においてアメリカのような大国の政府は何を最重要視すべきか。

・トランプ氏は金融規制や環境規制の緩和を力説し、「1つ規制をつくった古い規制を2つ撤廃するというルールもつくる」とも述べている。そして所得税と法人税の税率も大幅に引き下げる。トランプ氏は規制緩和と減税による小さな政府路線を打ち出しているわけだから、同時に行政組織全般にわたって速くかつ大規模なリストラも推進していくに違いない。

ニューディール政策や州間高速道路整備と1兆ドル公共事業投資

・次の「公共事業投資」については、トランプ氏は119日の大統領選の勝利宣言で次のように述べている。「都市部のスラム化した地域を整備し、高速道路や橋、トンネル、空港、学校、病院などのインフラを整備することが最重要課題だ。そのために何百万人という労働力を投入する」。100日計画では10年間で1兆ドルものインフラ投資を掲げ、積極的に財政出動も行うのだが、「何百万人という労働力を投入する」とはそれだけの数の新規雇用の創出も狙っているということだ。

 トランプ氏の提案するインフラ投資は投資規模から、1930年代のルーズベルト大統領によるニューディール政策や1950年代のアイゼンハワー大統領によるインターステート・ハイウェイ(州間高速道路)整備計画といった、アメリカの歴史に残る公共事業とも比較されるようになっている。

『なぜ日本だけがこの理不尽な世界で勝者になれるのか』

高橋洋一   KADOKAWA  2017/4/28

いまや世界経済のリスクとなった中国

自国の統計を信じない中国の政治家たち

・経済学者の目から見ると、中国は不思議な国だ。経済学の基本でいえば、輸出は外需、輸入は内需の動きを示す。貿易統計の数字を見ると、近年の中国は輸出・輸入ともに減少しているのに、GDPは伸びている。この現象を論理的に説明できる術を筆者は持ち合わせていない。誰かに説明してもらいたいほどだ。

 もっとも、中国政府が発表しているデータを鵜呑みにすれば、いまも中国が経済成長を続けているというストーリーを簡単につくり出すことができる。

中国のGDP統計に対して疑惑の目を向けているのは、筆者だけではない。以前から多くのエコノミストやジャーナリストが疑惑を指摘しているが、恐ろしいことに中国の政治家たちすら、国の統計を信頼していない。

・中国の国家統計局が公表する経済成長率は2012年から“小刻み”に低下しているが、これも経済の成長が止まったことをわかったうえで、対外的に「急激な失速」という印象を与えないように改竄されたデータである、と見たほうがよい。

 外需が芳しくない要因には、競争力の低下や需要の落ち込みが考えられる。これらは短期的には改善されにくいものだ。また、内需についても、共産党指導部が問題視している国内の過剰生産が「供給側の構造改革」によって解消されないかぎり、好転は難しい。貿易統計しか信頼できる判断材料がないとはいえ、中国経済が当分のあいだ、低迷する確率は高いと予測できる。

<人民元は国際通貨になれるのか>

経済が低迷するなかで、今後の動向を探るカギとなるのは、習近平体制がどこまでもちこたえられるか、ということだ。中国経済をめぐっては、アメリカの経済学者であるケネス・ロゴフがハードランディング論を唱えている。はたして習政権は自国の経済をどこに、どう着地させようとしているのか。

 先進国では、政治的な自由と経済的な自由はセットで動いている。一方、中国の政治体制は一党独裁であるため、政治的な自由の確保は絶望的だ。そのため中国では、経済的な自由を達成できない――というのが、筆者の考える基本的なロジックである。

中国は先進国になる前に「中進国の罠」に突き当たる

・中進国には2種類の相手との競争がある。1つは、背後から追い上げてくる途上国。賃金の安さで中進国よりも比較優位にある途上国は、輸出品ではコスト競争力を発揮する。もう1つは先進国だ。技術力や開発力では、中進国は先進国の後塵を拝するケースが多い。コスト競争力で途上国に敗れ、技術力では先進国に敵わなければ、中進国の経済成長は止まってしまう。これが「中進国の壁」といわれる現象である。

・それに対して中国は、工業化を国有企業が牽引し、いくつかの優良企業も現れつつはあるが、資本・投資の自由化はほぼ不可能である。

・このままでは、中国は中進国の壁を越えられなかったマレーシア、タイ、アルゼンチン、メキシコといった成長停滞国の二の舞になる確率が高い。

・国際通貨になるためには、発行国が経済大国であり、発達した健全な為替・金融資本市場を有し、対外取引の自由が保証されているといった要件を満たしていなければならない。これらは経済的な自由の典型だが、中国の場合、巨大な国内市場はあるものの、常習的な為替管理国であり、自由な対外取引にも難点がある。

 中国が経済的な自由を認めるのは、容易なことではない。なぜなら為替の自由化は資本取引の自由化と表裏一体であり、資本取引の自由化は国有企業の全面的な民営化につながるからだ。国有企業が民営化によって経済的な自由を獲得すれば、やがては政党選択という自由を国民は求めるようになる。すなわちそれは、現行の一党独裁体制が崩壊の危機にさらされることを意味する。

<中国は「理」がなくとも「利」で動く>

・中国としては、統計をどれだけ改竄しても実体経済の悪化は覆い隠せないという現実がある。実際に、中国からの資本流出には歯止めがかからなくなっている。その一部は、外貨準備高の減少というかたちでも現れている。

・いずれにせよ、中国国内の人件費は高騰し、もはや絶対的なコスト競争力が確保できない状況になっている。しかも、無格付けの社債が平気で発行される国である。破産法制が整っていないから企業の倒産はなかなか顕在化しないが、広州、香港、マカオでは数千社の倒産が起こっている。

 もはやビジネスの最適立地とはいえない、という理由から、中国以外の新興国に生産拠点を求める日本企業も少なくない。

この状況を放置しておけば、人民元は国際通貨になるどころか、大暴落を引き起こす可能性すら出てくる。人民元の暴落は習政権にとって致命傷になるだろう

・大風呂敷を畳むことができなければ、中国は「GDPが順調に伸びている」という架空のシナリオを描きつづけるしかなくなる。

「戦争の巣」東アジアでどう生き残るか

<集団的自衛権行使で戦争リスクは下がる>

民主主義国家同士のあいだでは戦争はほとんど起こらない

・戦争は二国(多国)間で起こる。そして、仕掛ける国の都合で始まる。だからこそ、成熟した民主主義国家同士の「同盟関係」が重要になる。どんなに野蛮な国でも、複数国を相手に戦争を仕掛けることの無謀さを理解しているからだ。

・筆者は数字を示そう。集団的自衛権の行使によって日本の戦争リスクは最大40%下がる。また自主防衛(個別的自衛権の行使)と比較すれば、コストは75%程度少なくて済む。

・日米同盟のコストは1年で約1.7兆円、そこに防衛関係費を加えても約6.7兆円だが、現在と同等の防衛力を自前で賄おうとすれば、2425.5兆円かかると試算されている。さらに筆者の指摘を加えるなら、自主防衛の道を選択すれば、いずれは抑止力としての核兵器保有まで視野に入れなければならなくなる。

・お花畑の真ん中で安全保障の論議をしていたら、いつ非合理な事態に巻き込まれてもおかしくはない。すでに日本の排他的経済水域(EEZ)には北朝鮮から頻繁にミサイルが撃ち込まれているという「事実」を、日本人はきちんと認識すべきだ。

<日本のPKO議論はガラパゴス状態>

・ついでにいえば、駆けつけ警護も安保関連法も憲法違反だと主張する野党は、25年前の世界にとどまったままである1周遅れどころか、3周遅れだ。

「日本の借金1000兆円」の大嘘

<政府資産の存在がバレて困るのは誰か>

・バーナンキ氏の理論では、大恐慌は各国の金融政策という一点からシンプルに説明される。金本位制に執着した国は十分な金融緩和ができずデフレから抜け出せなかったが、金本位制を放棄した国では自由に金融緩和ができたので、デフレからすぐに脱出できた。それが「魔物」の正体だ。この慧眼に、筆者もなるほど、と膝を打った。そして、当時の日本とドイツの経済政策に思いが及んだ。

・世界恐慌の渦中にあった1932年、ドイツでは失業率が30%を越え、失業者は600万人を数えた。これを3年間で160万人にまで減らし、世界恐慌前の経済状態に戻したのがアドルフ・ヒトラーの経済政策だった。アウトバーン(高速道路)の建設など、積極財政による雇用政策が功を奏したのである。

・一方、日本は世界恐慌とほぼ同時期に行われた金解禁によって通貨高となり、輸出が落ち込んで昭和恐慌を招いた。立憲民政党の浜口雄幸首相が、金本位制復帰に伴って緊縮財政を採用したことで、日本は猛烈なデフレに見舞われた。1931年の経済状況を29年と比較すると、国民所得は2割減、物価は3割減となっている。32年の失業率は統計上では8%程度となっているが、この数字は信頼性に乏しい。かなりの失業者がいたことは、各種の経済データから複合的に推測できる。その昭和恐慌から日本経済を回復させたのが、「高橋財政」と呼ばれた高橋是清の経済政策だった。

・ドイツのヒトラーも、日本の高橋是清も、積極財政と金融緩和をいち早く行ない、早期のデフレ脱却を成し遂げた。だが、経済が回復してからの両者の人生は対照的だ。ヒトラーは独裁体制を構築して戦争へと突き進んだ。高橋是清は軍事費の緊縮へと動いたことで暗殺され(226事件)、軍部の台頭と暴走によって日本も戦争へと向かった。

たとえば、国の借金が約1000兆円もある—―と心配している人は、いまだに少なくない。左派マスコミや財務省の御用学者だけでなく、どこのヒミつきでもないエコノミストのなかにも、この大嘘を疑わない人がいるのだから、彼らの言論に国民が騙されるのも仕方ないかもしれない。筆者にいわせれば「いまさら」だが、日本の財政はそれほど脆弱ではない。いわんや「このままでは財政破綻する」という主張には、失笑さえ覚える。

財政再建はすでに達成されている

・そこで、あらためて計算すると、約500兆円の借金から400兆円が除外されるのだから、国の本当の借金は100兆円そこそこ、多く見積もっても150兆円程度でしかない、という実態にたどり着く、GDP比でいえば、せいぜい20%程度。日本の稼ぎは、借金の5倍もある。これで「財政破綻寸前」なら、アメリカやイギリスはとうの昔に破綻しているだろう。同じ計算方法で各国の純債務をGDP比で見れば、アメリカは65%、イギリスは60%である。先進国のなかで比較をすれば、日本の財政はむしろ「優良」といってもよいくらいだ。

 断言しよう。日本の財政再建は実質的に、すでに達成されているのである。

<「政府の借金は国民の資産」論の危うさ>

・政府がもっている、莫大な収益をあげるための強力な権利が徴税権だ。国民や企業から強制的に税金を徴収できる権利は、実質的な資産といえる。しかも、少なく見積もって毎年30兆円以上の税金を徴収できるのだから、割引率5%として資産価値は600兆円にもなる。それを加味すれば、日本の財政は資産超過といってもおかしくない。

マイナス金利で得をするのは国民だ

<「濡れ手に粟」だった日本の金融機関>

・「マイナス金利」という言葉を初めて耳にしたとき、その意味と効果をすぐに理解できた人は少なかったのではないか。というより、いまだに正しい理解が得られていない人が多くいるように感じる。

「マイナス」と聞けば、条件反射的にネガティブなイメージを抱きやすいものだ。日銀がマイナス金利を導入したのは2016129日。直接に株価や為替が乱高下したこともって、エコノミストの論評のなかにも、マイナス金利を否定的に扱うものが数多く見られた。

 こちらも結論から述べよう。マイナス金利は日本の経済を活発にすると同時に、国民が得をする金融政策である。

<「オークンの法則」>

オークンの法則は、GDPと失業率には密接な関係があり、経済成長しなければ失業者が増えるという理論である。成長しなければ人々の満足度も豊かさも高めることはできないという因果モデルは、経済学では動かしがたいテーゼだ。

・オークンの法則は、日本を含めた先進国で広く実証されているからこそ、「経済法則」の名に値するのである。

<経済成長をボウリングに譬えると………>

・オークンの法則は経済成長と失業の関係を如実に示すものだが、さらに踏み込んで開設すれば、失業率が下がることは自殺率や犯罪率の低下、また労働力人口に占める生活保護率などの低下にもつながる。

<年金制度の持続可能性は高まった>

<評価に値するマクロ経済スライドの発動>

<消費税の社会保障目的税化は悪手だ>

・少子高齢社会において、年金の財源確保は大きな問題だ。しかし、そのために消費税率を上げなければならないというロジックに合理性はない。

歳入庁創設が年金問題解決の最適解

・この問題は、じつは簡単に解決できる。「歳入庁」を創設して税金と社会保険料の徴収を一元化すればよいだけだ。現状の非合理なシステムを一つの機関に統合すれば、徴収効率は高まるし、行政のスリム化にもなる。納める側も手続きが1ヵ所で済む。デメリットは何もない。

 海外では、むしろそれが当たり前のシステムだ。

・国税庁の税務調査権は、財務官僚の裏の権力だと筆者は思っている。「税務調査が入る」といえば、誰でもビビる。この権力を振りかざせば、政界、財界、学界など、あらゆる業界の人たちを黙らせられる。この既得権を手放したくないから、財務官僚は国税庁が切り離されて歳入庁に編入されることに全力で抵抗するのだ。

 歳入庁創設は年金問題の最適解である。その解を導く計算式をどう編み出していくかが、政府の進める「社会保障と税の一体改革」のカギになる。

GPIFは見直しではなく廃止せよ

GPIFについては、組織の「見直し」よりも「廃止」が正しいと筆者は主張してきた。

 公的年金の現行制度はほぼ割賦方式で、一割程度が積立方式になる。割賦方式は「入(保険料+税)」と「出(年金給付)」が等しくなるように調整する。「入」は賃金に連動し、「出」は物価に連動する。このバランスがうまくとれていれば、年金制度が破綻することはない。マクロ経済スライドは、そのバランサーだと理解すればよい。

 ということは、年金財政にとって積立方式は1割程度しか寄与していないことになる。年金積立金は100兆円以上ある。そんなにもっている必要がほんとうにあるのか。年金運営の流動性を確保するなら、10兆円程度で十分だ。

 GPIFは積立金を運用する独立行政法人である。2015年度には株価下落で5兆円を越える損失を出したことが大きく報じられたが、累積利益は40兆円ある。しかし、年金制度の本質論としては、一般国民の公的年金である積立金をリスクのある市場で運用することの是非を問うべきだ。

 結論からいえば、国が行なう事業として市場運用ほど不適切なものはない。100兆円の積立金を運用して利益が出ても、1割の寄与では年金給付額が大きく増えるわけではない。年金財政に運用は不要である。

 この筆者の主張に顔色を変えて反対するのは、GPIFから運用委託を受けている民間の金融機関だろう。100兆円の資産を運用する信託報酬を0.01%としても、金融機関には100億円もの手数料が転がり込む。実際、金融機関の厚労省詣では霞が関でも有名だ。金融機関の関連団体が厚労省の退官者の再就職先になるケースもある。ここにも利権と天下りの癒着構造が存在している。

・年金財政の観点からいえば、インフレヘッジのためには市場運用を行なうのではなく、積立金の金額を非市場性の物価連動国債にすればよい。これなら不確実性も、リスクもない。さらに、有能なファンドマネジャーによる裁量も必要ない。業務は「今月はいくら分買います」と財務省に電話をするだけだから、運用担当者が1人いれば事足りる。したがって、GPIFという大きな組織もいらなくなる。これが「廃止論」の根拠である。

しっかり保険として制度運営を行なえば、日本の年金制度が破綻することはない

・厚労委で意見陳述したとき、筆者は官僚時代に考案した「社会保障個人勘定」を引き合いに出し、社会保障費の個人ベースの持分権を、個人勘定内で融通し合う制度の検討を提案した。これは「お好みメニュー方式」や「カフェテリア方式」とも呼ばれる。たとえば健康に自信がある人なら、健康保険の持ち分を年金の持ち分に移行するといったことを可能にする仕組みで、自分の社会保障を自分の考えで再構成するアイデアだ。

 これに関連して、「年金定期便」を制度化した経緯も述べた。読者のところにも届いているだろう。政府が行なうべき責務を、国民の1人ひとりがしっかり把握していれば、年金を補完する手立ても自分で決めることができる。そういう社会保障のあり方を想定して、年金の将来も個人ベースで伝える年金定期便は企画された。官僚時代の筆者は、この制度発足にも関わっていた。

<シェアリング・エコノミー(共有型経済)>

・世界中に向かって、日本はおおいに“カッコつければ”よいと筆者は思う。それが経済成長につながり、オリンピックやパラオリンピックでは選手が獲得する金メダルの量産にもつながる。成長を否定せず、成長をめざしつづけているから、日本は「理不尽な」世界でも、勝者になれるのだ。


by karasusan | 2017-12-28 09:38 | その他 | Comments(0)