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2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を控える日本は今後、ハクティビストやテロ集団による示威的なサイバー攻撃の標的にならざるを得ない。(1)

『ビジネスを揺るがす100のリスク』  日経BP総研2030展望

日経BP総研 編著  日経BP社     2018/10/25

リスクとは「目的に影響を与える不確実な何か」である。>

日経BP総研が選ぶ十大リスク

2019年以降ビジネスパーソンが注意すべき10大リスク

ルール急変――国家や企業がビジネスのルールや条件を恣意的に変える

開発独裁優位――テクノロジー利用を遮二無二進めた国家が果実を得る

認証品争奪――違法な伐採や操業に無縁の産物を取り合う

社員大流出――人生百年論や五輪などを契機に永年勤続に見切り

新車販売不振――配車アプリと自動運転が共用を加速

中間層消滅――平均的な消費者などいなくなる

火葬渋滞――高齢化で多死社会、斎場や火葬場が大都市で不足

存在感ゼロ――ネットで検索しても企業名が上に出てこない

学習データ汚染――誤りが混入しAI(人工知能)が誤学習

リスクマネジメント形骸化――チャンスをつかめずリスクも回避できず

・リスクを識別する一助となることを目指し、本書はビジネスパーソンが注意すべきリスクを百件選び、解説する。中でも重要なものを「2019年以降ビジネスパーソンが注意すべき十大リスク」として表にまとめた。

 十件は「確実に来るリスク」であり、経営者や自治体の首長、事業部門の幹部、現場の担当者まで、すべてのビジネスパーソンは「自分や自分の組織にどう起こるか」「影響はどの程度か」と、ぜひ問うてみてほしい。

 リスクは不確実な何かだから「確実に来るリスク」という言い方は本来おかしいが、十件は「時期は特定できないが起こる」あるいは「すでに起きつつある」ものである。そして十件の影響の度合いはそれぞれの組織ごとに異なる。

・十大リスクの一つ、「ルール急変」は続発しつつある。米国は自動車関税を含め貿易のルールを恣意的に変えようとしており、受け入れる国もあれば対抗する国もある。EUは自域の優位確保を狙い、GDPR(一般データ保護規則)を策定、個人情報の域外移転を規制している。

・「開発独裁優位」は起きるかどうかまだ分からない。一党独裁の中国はITや遺伝子組み換えといったテクノロジーの利用をトップダウンかつ猛スピードで推し進めている。その結果、合議で物事を進める民主主義国家より優位に立てる、あるいはすでに立った、という見方がある。本当に優位に立ったとしたら、他の民主主義国家は大きな影響を受ける。

・いわゆる配車アプリと自動運転によって自動車の共用(シェアリング)が進み、「新車販売不振」が顕著になると指摘されている。配車アプリはすでに使われているが自動運転の普及はこれからである。新車販売不振がはっきりした場合、自動車産業は多大な悪影響を受けるが、シェアリングに伴う新ビジネスに取り組み、リスクをチャンスに変える企業も多数出てくるだろう。

 このように「これがリスクであり、こうすべきだ」と万人に向けて明解に言い切ることが難しい。前述した通り、リスクが厄介な所以である。

・一方、自然あるいは人間に関わる不確実性を「ESG」(環境・社会・ガバナンス)のリスクとして括り、第4章で説明する。ESGは企業や自治体が守るべき事柄の総称である。例えば、組織が取り扱う食料や材料は適法の伐採や操業によって得られたことを示す認証品でなければならない。一斉に各組織が調達に動いた場合、「認証品争奪」が起きかねない。環境問題には確実なことと不確実なことが混在しているが、しかるべき対応をしておかなければ悪影響を受ける危険があり、組織の評判まで落としてしまう。

・企業の経営や自治体の運営を考えると、人・自然のリスクとして「人財不足」の分野が、テクノロジー・人工物のリスクとして「自動運転」の分野が、それぞれ関連してくる。前者は「社員大流出」など人出不足や人の質に関するリスクである。

・組織の外側にある市場すなわち顧客についても当然、配慮しなければならない。人、すなわち消費者に注目して市場関連のリスクを検討し、「格差社会」という分類で総称した。「中間層消滅」に加え、「消費欲減退」「富裕層二分化」といったリスクが含まれる。

・さらに消費者が住む場所に注目してリスクを検討し、「都市スラム化」として分類した。人口集中、賃金格差、都市内地域格差、能力格差、AI(人工知能)などによる特定分野の無人化とそれによる失業などが絡み合う。斎場や火葬場が大都市で不足する「火葬渋滞」や「高騰ビルと座礁ビル」といった事態が懸念される。

・業種・業態、営利組織・非営利組織を問わず付いて回るのは情報の取り扱いである。本書では大きく二つ、組織内の人と組織外の人をつなぐコミュニケーションと、組織内におけるデータ利用に分けてみた。例えばネットで検索しても企業名が上位に出てこない「存在感ゼロ」、誤りが混入してAIが誤学習する「学習データ汚染」といったリスクが潜む。

・AI利用としたのはAIが注目されているからだが、AIやIoT、ビッグデータなどのIT利用を進めていく場合、不確実性が常に付いて回る。

 以上の九分野で取り上げたリスクの大半はビジネスとテクノロジーに関するもので、企業なら経営会議で議論し、手を打つことができる。

 百件に絞るにあたり、中国の海洋進出、朝鮮半島情勢、テロ拡散といった、地政学や政府が絡むカントリーリスクは割愛した。南海トラフ地震・津波、首都直下地震、破局的噴火、パンデミック、特定外来生物などの自然災害関連は第四章(ESG)などでいくつか触れたが、かなりの部分を省いた。

 半島情勢や2018年の日本を襲ったような地震、台風と大雨、酷暑といった自然の猛威はいずれもリスクだが、これらは発生時に緊急対応すべき危機管理の対象であり、リスクをチャンスに変えるマネジメントの対象とはみなしづらいと判断したからだ。

 

・九分野とは別に「リスクマネジメント形骸化」など、リスクマネジメント自体のリスクを百件に含めた。本書のまとめとして第十一章でリスクをチャンスにする方法を検討し、リスクマネジメントと危機管理を包含し、既知のリスクに加え、未知のリスクにも対処しうる「アサンプションマネジメント」を提案する。

<「(我々が未来について)試みうることは適切なリスクを探し、時にはつくり出し、不確実性を利用することだけである」>

・ゲームのルールが変わり、常識や前提をくつがえすリスクがしのびよっている。オープンイノベーションのような他の組織との協業を進めると共に、守るべきルールは守る。中期経営計画や成長戦略を作りっぱなしにするのではなく状況の変化に応じて見直す。必要な情報をパートナーと共有できるように組織を開くべき時に開き、閉じるべき時に閉じる。簡単ではないが、しなやかに動かなければならない。リスクマネジメントは組織や人を縛るものではなく、動かすためのものである。

ルール急変

どこから敵が現れるのか分からない

・オープン化の影響の一つはルールの急変である。世界がつながったため、新興勢力が新たなルールを持ち込むと、それがあっという間に広がってしまう。オープン化への反動として、グローバルな商取引ルールを一夜にして覆す意思決定を下す国家もある。

 米アマゾン・ドット・コムが参入することで事業領域のルールが変わってしまい、既存のプレーヤーが駆逐される。いわゆる「アマゾンエフェクト」はインターネットによって世界の消費者と生産者がつながったことによってもたらされた。リアルな書店、CDショップ、玩具店、衣料品店などはアマゾンによって多大な打撃を受けた。アマゾンは次に薬局を狙い、さらに金融サービスに乗り出すのではないかと見られている。

ルールを恣意的に変える典型例が2018年、世界の関心を集めた米中の貿易戦争だろう。

・日本の産業界にとっては米国の自動車関税の行方が関心事だが、一企業にとっても世界のオープン化とルール急変は様々な形で影響する。金余りの中国企業に取引先がいきなり買われる。長年の付き合いの発注先がより良い条件を出した米国企業の傘下に入ってしまう。

日本素通り

お金も技術者も日本に来ない

・ところが中国企業が力を付けてくるにつれ、試作の段階から中国側が受注する動きが顕著になり、日本企業はバイパスされつつある。

 さらに、ここへ来て中国側の技術競争力が高まり、開発自体を中国で進め、一部の業務をシリコンバレーに発注する逆転現象がみられるようになっている。

 中国でコンピュータサイエンスを学んだ優秀な学生がシリコンバレー企業に就職、その後米国で独立、起業したり、中国に戻って企業し、シリコンバレー企業と連携したりするといったことは当たり前になった。さらに米国の優秀な学生が中国のIT企業に入ることもしばしばある。

製造業のデジタル化遅れ

日本の強みを維持できるか

・日本の産業界を見渡すと依然として世界に通じる競争力を保持しているのは、自動車やエレクトロニクス部品など製造業である。中国や韓国に追い越された製品も多いが、品質や機能の点で日本の製造業にしか作れない物はまだまだある。

 だが、電子商取引が席巻した流通業や金融業のように、製造業も「デジタル化」の動きが世界中で出てきている。そこでいうデジタル化とは製造業全体の変革という大きな概念を表しており、従来の手法や仕組みにデジタル技術を取り入れることに留まらない。

日本の製造業の場合、中小企業と呼ばれる企業がほとんどを占める。こうした多くの企業を動かさない限り製造業全体のデジタル化は望めない。だが、多彩なデータを利用しながら製造業の仕組みを進化させるIT基盤を導入するための必要な資金や人材を中小企業はなかなか確保できない現状がある。

・この変化に追随できないと、競争の舞台に上がることすらできなくなり、日本の製造業が衰退していくことになりかねない。そうまでならなかったとしても、日本以外の国や地域に有利なビジネスの仕組みができ上ってしまうと、日本企業が市場で有利なポジションを獲得するのは格段に難しくなる。

海外進出暗転

二重課税など進出先が勝手にルールを適用

・日本企業にとって国内市場に留まらず海外市場に進出して事業を拡大するのは長年の課題であり、多くの企業が挑戦してきた。世界販売台数の半数をインド市場で売るまでになったスズキのような例があるものの、様々な難題に直面して撤退に追い込まれた企業も死屍累々、といった状況である。

・これら新興国へのインフラ輸出で悩ましい問題となってきたのが、外為取引、制度・許認可の変更、資産の接収、政治暴力、政府・政府機関の契約違反といったポリティカルリスクである。ここでもルール急変が起きている。

 特に近年増えているのが契約違反だ。例えば、インドに進出した企業の多くが土地収用に関わる契約違反に直面している。

・こうした事態が起こる原因として、政権交代のたびに前政権の実績を全否定する傾向があること、汚職の蔓延、役人の契約概念や実務能力の欠如、などがあり、根は深い。

グローバル化を進める日本の製造業がもう一つ直面しているのが二重課税の問題である。

・移転価格税制とは、親会社と海外子会社など関連企業間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、この取引が通常の第三者との取引価格で行われたものとみなして所得を計算し直し、実態と乖離している部分に課税する制度だ。この制度はもともと、グーグルやアマゾンといった米国のグローバル企業の大がかりなタックスプランニングスキームに対抗するために設けられた。米国グルーバル企業は当該国で上がった利益をタックスヘイブン(租税回避地)に移転し、節税している。

 しかし、日本の製造業の場合、そうした意図はなく適正な取引をしていても、移転価格税制を盾に法外な税金を要求されてしまう。

重要インフラへのサイバー攻撃

どこから攻撃されるか分からない

20175月頃から世界数十ヵ国で猛威を振るったランサムウェア「ワナクライ」によるサイバー攻撃は従来とは異なる脅威を企業や社会に見せ付けた。

 ランサムウェアは脅迫型ウイルスとも呼ばれ、感染したパソコンやサーバーといったコンピュータのデータを勝手に暗号化し、暗号解除キーと引き換えに対価を要求する。データをいわば人質に取った身代金の請求である。

・日本政府はサイバー攻撃を受けた場合に企業活動や国民生活への影響が大きい十四分野を「重要インフラ」に位置付け、警戒を強めている。

・重要インフラへのサイバー攻撃の実行主体としては、政治的な主張を持ったハッカーを意味する「ハクティビスト」、テロ集団、対立する国家などの関与が疑われるケースが多い。ミサイルのような射程距離がないサイバー攻撃は、世界中どこからでも標的に攻撃を仕掛けられる。

2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会を控える日本は今後、ハクティビストやテロ集団による示威的なサイバー攻撃の標的にならざるを得ない2012年のロンドン大会、2016年のリオデジャネイロ大会では、公式サイトなどへのサービス妨害攻撃が多発、2018年のピョンチャン冬季大会では国連組織に対する標的型攻撃も行われた。東京大会の場合、社会インフラを狙ったランサムウェア攻撃などが加わり、テロリストや犯罪者がサイバー攻撃の技を競い合う場になる恐れがある。

ビジネスメール詐欺

組織のお金が電子メールでかすめ取られる

・上司から「至急対応してください」という見出しのメール。本文には「○○社の○○さんからのたっての依頼で、海外の提携先企業と緊急でプロジェクトを始めることになりました。1600万円の業務委託料をこの口座ヰに振り込んでください。申し訳ないですが急ぎで」とあった。

 ○○社は得意先で○○さんのこともよくよく知っている。指定された振込先口座がいつもと違うが、急ぎのことだったので振り込み手続きをした。ところがそのメールは偽のもので依頼は詐欺だった。

 こんな事件が2015年頃から急増している。ビジネスメール詐欺と言われるこの犯罪は、攻撃者が取引先や自社の経営幹部を装って電子メールを現場の担当者などに送り、攻撃者の口座に入金を促し、資金をかすめ取る。

日本国内でも高額な被害が確認されている。201712月には日本航空がビジネスメール詐欺の被害に遭い、合計38千万円が奪われたと公表した。

・ビジネスメール詐欺の手順は次のようになる。まずウイルスメールなどを社員に送り付け、企業のサーバーに侵入するためのルートを確保する。業務メールを盗み見て、過去にやり取りされたメールの本文や契約書を手に入れる。メールや契約書を参考にして本物であるかのようなメールを作成し、それを担当者に送って攻撃者が用意した口座への入金を促す。

 取引先とやり取りしている間に割り込んで偽の口座に振り込ませる。弁護士や顧問など社外の権威者になりすます、といったケースもある。詐欺の準備のために、同じ手順で従業員情報を盗む場合もある。

・情報セキュリティ分野の情報収集と発信を手がけるIPAセキュリティセンターは「ビジネスメール詐欺という事件が発生していると知ること自体が大切」と助言する。その上で通常と異なる依頼が来た場合、依頼者本人に電話で確認をとる、または社内の第三者に確認を依頼する、といったことを徹底する。併せてコンピュータウイルス対策などの基本的な対策も促す。

真似される、真似する

どこから訴えられるか分からない

・インターネットを通じて流れる情報が爆発的に増え、知的財産権に関わるトラブルが生じている。自分たちの製品や作品を真似されてしまう。あるいは知ってか知らぬか、他者の製品や作品を真似したり、他者の知的財産を誤用したりする。

 前者はこれまで特許権に基づいた「技術」の模倣が多かったが、近年はそこに「デザイン」が加わった。

・意匠登録をすれば必ず模倣問題が防げると言うわけではないが、デザインを重視した商品を販売している場合、国内のみならず海外も含めた国際意匠出願が必須になっている。

・知的財産権を巡っては、真似されるだけではなく、意図的ではないにしろ真似してしまう恐れがつきまとう。それは金銭的にも、金銭に換算できないブランド価値の損失という意味でも、大きな悪影響を与える。

GAFA落日

栄枯盛衰、ITの覇者は弱る

・「ルール急変」のところで述べた通り、オープン化は「その影響を嫌う勢力から揺り戻しの圧力を受けつつある」。インターネットで人々がつながる世界で巨大化した、「GAFA」と呼ばれる米国企業4社に対する反動が目につき出した。

 特にグーグル、フェイスブック、アマゾンはインターネット上で利用者がどのような行動をしたか、閲覧や投稿、購買の履歴を記録している。世界経済フォーラムが「パーソナルデータはインターネットにおける新しい『石油』になる」と予想した新資源を手に入れた。

GDPR(一般データ保護規則)

データ保護がもたらす分断

・EUは2018525日からGDPR(一般データ保護規則)を施行した。目的はEU域内の個人・住民が自身の情報をコントロールする権利の確保。言うまでもなく、GAFAのような米国勢、台頭する中国のネット企業に、EU域内の個人データという「石油」が流出することを防ぐ狙いがある。

ネット経済への無理解

分かっている人は誰か

・このように米国とEU、そして中国を支え、新たな石油を巡る競争がインターネット上で繰り広げられているが、ここでも「日本素通り」の恐れがある。そもそも日本企業はインターネット・エコノミーを理解しておらず、法規制への遵守は別として、戦略的な対処をしていないという指摘がある。

開社力の欠如

守りの意識が強すぎる

・社会が成熟し、ニーズの多様化が進んだことで、企業の継続的な成長、あるいは業績維持が難しくなっている。単一の商品やサービスをマス市場に販売できなくなってきた。従来と同じモノやサービスを提供しているだけでは顧客は離れていってしまう。

・新たな価値を生み出すには、こうした元々あまり接点がなかった業界同士が同じ目的のために協調していく必要がある。それには社外に門戸を開き、外部と積極的に連携することで複雑な問題の解決を目指す「開社力」が欠かせない。

・こうした状況に陥ると業績が伸び悩んでも斬新な対策を打ち出せない。ディスラプティブな(破壊的な)プレーヤーが登場し、市場を奪っていくのを、指をくわえて見ていることになる。業界あるいは海外の動向をつかめなくなれば世界の新しい常識も分からなくなり、ますます乗り遅れていく。

 企業組織の「生命力」を強くし、さらなる成長を目指すには、社外に求める技術やノウハウと自社で持ち続ける技術やノウハウを明確に区別するとともに、スピード感をもって効率的に社外の力を取り込むことと、そのための意識改革が欠かせない。

企業メディア炎上

ネット時代の新たな落とし穴

・ネット社会においてはウェブサイトや企業SNSなど、自ら情報を発信できる、いわゆるオウンドメディアの重要性が高まった。同時にネット社会ならではの「炎上」という事態が頻発しつつある。

・とはいえ、情報発信の目的の一つはネット上で話題となりSNSなどを通じて拡散してもらうことにある。いわゆる「バズらせたい」ということだ。そのため情報発信の担当者、広告担当者はある程度エッジの効いた内容を発信していかざるを得ない。それが行き過ぎると炎上してしまう。

 ネット炎上によって企業ブランドにダメージを与えたとしても、業績に大きな影響を与え、経営者の責任が問われる事態にまで発展することは今までそれほどなかった。だが、それは変わってくる。

内部情報の暴露

国が司法取引を導入、内部通報を後押し

20186月、他人の犯罪を明らかにすれば見返りが軽くなる「日本版司法取引」が導入された。対象には、詐欺や恐喝、薬物・銃器などの犯罪のほか、贈収賄や脱税、カルテル、談合、粉飾決算、インサイダー取引などの経済犯罪が含まれる。今後、複数企業が絡む犯罪なので企業側が進んで司法と取引し、従業員を守ろうとするケースが増えると予想される。

・暴露に踏み切りかねないのは、企業内の正社員、非正規社員、アルバイトだけではない。その家族や退職者、取引先などの関係者も情報を持っている。こうした人々を監視することなどできない。企業が襟を正し、良い会社になろうという努力を継続することが根本的な対策と言える。

不意打ち口撃

口コミが背後から襲いかかる

・内部告発や暴露はなんらかの意図があって行われるが、そうではなく従業員の単なる不用意な書き込みや投稿が思わぬ被害を引き起こすこともある。

 ある銀行では芸能人が来店したことを行員の家族がネットに投稿してしまい、炎上した。顧客の守秘義務を扱う金融機関にとって致命的な問題として、その銀行は再発防止に取り組む姿勢を打ち出した。

・ネットやSNS上に投稿された企業イメージを損なう書き込みを放置しておくにはいかない。弁護士など専門家に相談して早めに削除申請を出すことで被害を抑制したいが、これがなかなか難しい。

火消し失敗

謝り方を間違うと再炎上

・火は最初から大きいわけではない。小さいうちに消せれば炎上被害は避けられるはずだが、消化は容易ではない。準備が足りないと、火消しに失敗し、逆に火を大きくしかねない。

危機管理広報の危機

「たいしたことではない」は禁句

・品質データ改竄、異物混入、情報漏洩、不正会計など、不祥事やコンプライアンス違反が目立つ。リスクが実際に危機として発生してしまった場合、ダメージの最小化を図るクライシスマネジメント(危機管理)が発動される。

 ところが危機管理で重要な、迅速かつ適切な広報の対応を誤ると、著しいブランドの毀損など、本来の対価を超えた代償を払うことになってしまう。

・誤りがちな例として大森氏が挙げるのが事実の矮小化である。「いざ不祥事に直面すると『たいしたことではない』『安全性に問題はない』など、情報公開に後ろ向きになる声が出がちだ。しかし、それを判断するのは自社ではなく、社会であることを忘れてはならない」。

リスクマネジメント形骸化

識別して一安心

・形は整えたわけだがこれだけでは機能しない。ISOのマネジメントシステムを取り入れたときに見られた。資料を作って安心する形式主義がリスクマネジメントにおいても出てきている。リスクの識別にばかり目を向ける。書式や手順を整えることに精を出す。これこそリスクマネジメント形骸化というリスクである。このリスクからチャンスは出てこない。

「リスク回避」の回避

回避策をとれるリーダーはいるか

・経営危機につながる何かを回避する策それ自体が痛みを伴うことも多く、断行する決断をなかなか下しにくい。「そこまで大変なことにはならない」と逡巡しているうちに、取り返しがつかない事態になることもある。腹をくくり回避策をやってのけるタフな経営幹部がいなければリスクマネジメントは機能しない。

思い込み

「大丈夫なはず」は大丈夫ではない

リスクマネジメントが難しいのは、リスクが見えないからである。たとえ識別はしていても「目で見えないと納得できない」「実際に起きてみないと動けない」ということになりがちだ。目の前に危機が迫ってきて、ようやく腰を上げ、回避しようとしてもそれは難しい。

 識別にしても、頭で考えたもの、あるいは類似案件で過去に発生したものを列挙しているに過ぎない。見過ごしているものがあれば、それが発生したとき、直撃を受けてしまう。

地球寒冷化

食料不足とインフラ機能不全を引き起こす

・思い込みというものを考える材料として「地球寒冷化」を取り上げてみよう。書き間違いではない。地球の気温が下がっていくと警告する研究者や学者、研究機関は存在する。

・これまで太陽は活発な時期と停滞する時期を繰り返してきた。ザーコバ教授によると現在は停滞期に入っており、2030年に向けて気温が下がっていき、寒冷期になるという。同じ2015年の11月にはNASAが人工衛星を使って南極の氷床を計測し、氷が溶けている地域と氷が増えている地域の両方があり、南極全体として氷床は増えていると発表した。NASAの計画が正しいなら、温暖化に逆行する事象と言える。

・とはいえ、気候変動に関する論文や発表そして報道の多くは地球温暖化についてであり、地球寒冷化を主張する学者や機関の意見は少数派に見える。太陽の活動(黒点の動き)と地球寒冷化に何の関係もない、と全面否定する指摘は少なくない。

 リスクマネジメントの観点から言うと、地球が寒冷化していくのか、温暖化していくのか、白黒を付けることに意味はない。気候変動のメカニズムや太陽との関係について分かっていないことはまだまだある。確実なのは、誕生以来、地球は温暖化と寒冷化を繰り返してきたということである。どちらかだけを確実に起きる前提としてとらえることはリスクマネジメントの立場からすると適切ではない。

・そもそも気候変動という大規模かつ複雑な現象を単純な因果関係で説明できるかどうか、そこからして定かではない。寒冷化の論者は前出の通り、太陽活動の停滞により地球の気温が低下するという因果関係を主な論拠とする。これに対し、温暖化の論者は温室効果ガスが増加し、気温の上昇を招くという因果関係を論拠にしている。

・温暖化については多くの企業が対応策を中長期計画などに取り入れている。温暖化対策に不熱心ということで株価が下がるリスクを回避する意図もある。

 寒冷化についてはどうか。発生時の影響は甚大である。気温が下がること自体の影響に加え、天候不順になると光合成に影響する。穀物や野菜など食料の栽培と収穫が難しくなり、食料不足になりかねない。欧州では寒冷化に強い種子の研究があるという。

・社会インフラを支える各種機器について、現状では特定地域で使用するものを除き、寒冷化対策が施されているとは言い難い。人類が体験した前回の寒冷期は17世紀から18世紀、産業革命の時代にまでさかのぼる。それ以降、ざっと300年の間、人類は寒冷期の経験がないまま今日に至っている。

東京五輪

危ないと言われるが本当はどうなのか

アサンプションを考える格好の題材がある。東京オリンピックである。すでに開催期間中の交通・移動の混雑や停滞、国際空港の発着陸回数の増大とそれに伴う航空管制の負荷、入管手続きの増大、酷暑対策、サマータイム導入、といったことが指摘されている。ビジネスへの影響もある。建築・土木であれば、工事費の高騰、労災増加、設計・施工ミス増加などだ。

 こうした事項に「はず」を付けて考えてみる。ビジネスチャンスに変えるアイデアがひらめく可能性がある。

鈍感経営

しなやかな思考でチャンスをつかむ

・今後2030年までを展望し、リスクを洗い出した際、経営者に関するものが複数あった。例えば「文系脳経営」(情緒的かつ非合理的かつ非挑戦経営)、「慎重経営」(バブル崩壊後の30年間に出世した人は慎重だが部下が提案するアイデアを判断できない)などである。

 しかし理系であれば合理的に考えるとは限らないし、挑戦するとも言い切れない。文系であっても理系の参謀と組めばよい、慎重であることは欠点ではなく、部下の提案を評価できないこととは別である。

 大事なのは思考のしなやかさではなかろうか。アサンプション(思い込み、前提)を見出し、正しくない思い込みであるならそれを止め、前提を見直すには、柔軟な思考が求められる。

『資源争奪戦』

最新レポート  2030年の危機

柴田明夫   かんき出版   2010/1/6   

資源価格の乱高下は何を意味するのか

21世紀に入って上昇トレンドをたどり始めた原油や金属などの資源価格は、2008年前半にかけて歴史的な高値を記録したかと思うと、年の後半にはこれまた歴史的な暴落を見た。

 しかし、暴落したとはいえ、そのレベルは過去と比べるとはるかに高い水準へと移行している。ここ数年の資源価格の乱高下はいったい何を示唆しているのだろうか。

・筆者の考えはこうだ。

 ここ数年の資源価格の高騰の背景には、中国やインドなどの人口大国が工業化による本格的な経済成長軌道に乗ってきたことがあるそれによって、地球が「資源の枯渇」と「地球温暖化」という、誰にも止められない「2つの危機」を加速させてしまった。この延長線上には、ポイント・オブ・ノーリターンの世界、時間の流れのように後戻りができない地球の成長の限界、つまり「臨界点」が待ち受けている。

 我々にできることといえば、省エネ・省資源・環境対応の新エネルギーや代替エネルギーの開発を同時に進めることで「2つの危機」の進むスピードを緩和させることしかない。

おそらく2030年前後には地球は「臨界点」を迎えてしまう可能性が高いためだ。

 例えば、原油は楽観的見方に立っても30年には、「液体で濃縮され、生産コストの安い」原油は埋蔵量の半分を掘り尽くされ、生産のピーク・オイルを迎える。地球の平均気温が18世紀の産業革命前に比べ2度上昇してしまうのも、早ければ3240年との見方がある。世界人口が地球の養える人口80億人を超えるのは25年だ。一見バラバラに進んでいる現象が30年前後にひとつに繋がって、ついに臨界点に達してしまう。

 我々は「地下系」から「太陽系」への移行を急がなければならない。

この「つなぎ」の期間をどうするかということも、重要な問題である。

・「つなぎ」といっても5年や10年の話ではない。めざす太陽系エネルギーに立脚した低炭素社会は早急には訪れないからだ。

・究極の脱炭素社会の構築に向け、太陽光発電、太陽熱発電、二次電池、燃料電池の開発・普及を急ぐとともに、「つなぎ」として、地下系資源の省エネ・省資源・環境対応がこれまで以上に重要である。

一方、我々の地球では、「水不足」という新たな問題も深刻化しつつある。すでに、限られた資源をめぐって資源保有国と消費国、資源保有国同士の「グレートゲーム」が繰り広げられている。地球の「臨界点」が迫っている現在、そんなゲームをやっている場合ではない。


by karasusan | 2019-03-04 16:01 | 森羅万象 | Comments(0)